
夜中にトイレで目が覚める。
「また起きてしまった」と思いながら、暗い廊下を歩く。布団に戻っても、もう眠りは浅い——。
この症状を「年のせい」で片づけてしまう方が、とても多くいらっしゃいます。
しかし夜間の排尿が2回以上ある方は、そうでない方に比べて転倒や骨折が増え、健康を大きく損ないやすいことが分かっています。
泌尿器科医として多くの夜間頻尿の患者さんを診てきた経験から、はっきりお伝えできることがあります。
夜間頻尿の対策でいちばん失敗しやすいのは、「良さそうな対策を、片っ端から試すこと」です。水分を控えただけで良くなる方もいれば、まったく変わらない方もいる。その差は努力の量ではなく、タイプの違いなのです。
何回からが「夜間頻尿」なのか

医学的には、夜間に1回以上、排尿のために起きることを夜間頻尿と呼びます。ただし、1回で困っていないのであれば、それほど心配はいりません。
問題になりやすいのは2回以上です。このあたりから睡眠が細切れになり、日中の眠気や意欲の低下、そして夜間の転倒・骨折がはっきり増えてきます。
日本人の高齢者を追跡した研究では、夜間の排尿が2回以上ある方は、そうでない方に比べて死亡率が高かったという報告もあります。
ただし、これは「関連がある」という結果です。
トイレに起きること自体が寿命を縮めると証明されたわけではありません。
むしろ、その裏に心臓・腎臓・睡眠の問題が隠れているサイン——そう受け取っていただくのが正確です。
日本の40歳以上で、夜間に1回以上トイレに起きる方はおよそ4,500万人と推計されています(日本排尿機能学会の疫学調査による推計)。決して、あなただけが抱える特別な問題ではありません。
夜間頻尿の3つのタイプ

| タイプ | 体で起きていること | 典型的な感じ方 |
|---|---|---|
| ①夜間多尿 | 夜のあいだに作られる尿の量そのものが多い | 1回の量が多い。しっかり出る |
| ②蓄尿障害 | 膀胱に尿を溜めておく力が落ちている | 少ししか出ないのに、また行きたくなる |
| ③睡眠の問題 | 眠りが浅く、目が覚めたついでにトイレへ | 「念のため」行っている感覚 |
実際には、この3つが重なっている方がとても多くいらっしゃいます。だからこそ、まず「自分はどれが強いのか」を知ることが先なのです。
なぜ加齢とともに増えるのか
年齢とともに、心臓や腎臓が水分を処理する力は少しずつ落ちていきます。さらに、本来なら夜の尿量を抑えてくれる体のスイッチである抗利尿ホルモンの働きも、加齢とともに弱くなります。「若い頃は朝までぐっすりだったのに」と感じるのは、こうした自然な変化が背景にあるためです。
ただし、自然な変化だから何もできない、ということではありません。
セルフチェック:排尿日誌で自分のタイプを知る

用意するのは、計量カップ(またはペットボトルを切った容器)とメモだけです。2〜3日、次の3点を記録します。
- 起きた時間と、寝た時間
- トイレに行った時間
- そのときの尿の量(mL)
計算する2つの数字
① 24時間尿量
朝起きて最初の尿は測らずに捨ててください。そこがスタートです。そこから翌朝の最初の尿までを、すべて足します。
② 夜間尿量
布団に入ったあとに出た尿と、翌朝起きたときの最初の尿を足したものです。寝る直前の尿は含めません。ここを間違える方が多いので、ご注意ください。
判定:夜間多尿かどうか
夜間尿量 ÷ 24時間尿量を計算します。
| 年齢 | 夜間多尿と判定される割合 |
|---|---|
| 65歳以上 | 33%を超える |
| 65歳未満 | 20%を超える |
これに当てはまれば、タイプ①「夜間多尿」の可能性が高くなります。
たとえば、24時間で1,500mL、そのうち夜間が600mLなら40%。70歳の方であれば、夜間多尿ということになります。
もう2つ、見てほしい数字
- 1回あたりの量:昼も夜も、1回200mLに届かない排尿が多いなら、タイプ②(蓄尿障害)——膀胱に溜められる量が減っているサインです。
- 1日の総量:1日の尿量が体重1kgあたり40mLを超えている(体重60kgの方なら2,400mL以上)場合は、夜だけでなく1日を通じた「多尿」で、糖尿病などが隠れていることがあります。この場合は自己流の対策ではなく、受診してください。
「面倒くさそう」と感じた方へ。この記録は、診察のときにそのまま最良の資料になります。原因の絞り込みが早くなり、余分な検査を減らすことにもつながります。
タイプ①「夜間多尿」への6つの対策

昼のあいだ、重力で足に溜まった水分は、横になると心臓のほうへ戻ってきて夜の尿になります。ですから対策の柱は、「夜になる前に、足の水分を流しておく」ことです。
(1) 夕方に、足を上げる(費用ゼロ・今日から)
夕方に30分ほど、クッションや座布団を使って足を心臓より少し高くして横になります。これだけで、夜に作られる尿が減ることが期待できます。テレビを見ながらで構いません。
(2) 夕方に、軽く体を動かす
30分の散歩でも、椅子に座ったままの「かかと上げ」でも十分です。ふくらはぎは「第二の心臓」。ここを動かすと、溜まった水分が戻りやすくなります。
「夕方になると靴下の跡がくっきり残る」「夕方、靴がきつくなる」——そんな方ほど、効果を実感しやすいはずです。激しい運動は一切いりません。買い物で少し遠回りする、エレベーターを階段にする、それで十分です。大切なのは完璧を目指すことではなく、毎日続く形を見つけることです。
(3) 日中だけ、弾性(着圧)ソックスを履く
足首がいちばん強く、上にいくほど弱くなる段階的な圧のものを選びます。日中の活動時間に履いて、寝るときは脱いでください。2020年の『夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]』でも、薬を使わない対策のひとつとして取り上げられています。
次の方は、必ず主治医に確認してから使用してください。
- 足の血管が細くなる病気(閉塞性動脈硬化症など)がある方
- 心臓の働きが弱っている方
- 糖尿病で、足の感覚が鈍くなっている方
- 足に傷や皮膚のトラブルがある方
履いてみて、しびれ・痛み・皮膚の色の変化が出た場合は、すぐに外してください。
(4) 飲み物を見直す——ただし「減らしすぎ」も危険です
まず、よくある誤解から。「水をたくさん飲めば血液がサラサラになる」——脱水でない方がさらに水を足すことで、脳梗塞や心筋梗塞を防げるという、はっきりした証拠は実はありません。余分に摂った分は、そのまま尿になって出ていくだけです。
一方で、減らしすぎもいけません。高齢の方の脱水は、それ自体が危険です。ここは強調させてください。
目安として、飲み物からの水分は体重1kgあたり20〜25mL。体重50kgの方なら1日1,000〜1,250mL程度で、これに食事から摂る水分が加わるイメージです。汗をかいた日、暑い日、熱があるときは、当然増やしてください。心臓や腎臓の病気で主治医から水分の指示が出ている方は、自己判断で減らさず、必ずそちらを優先してください。
そのうえで、時間帯の工夫です。就寝の4〜6時間前からは、コーヒー・緑茶・紅茶などのカフェイン飲料とお酒を控える。どちらも尿を増やす方向に働きます。特にお酒は「寝つきが良くなる」と思われがちですが、眠りを浅くして、しかも尿を増やす。夜間頻尿にとっては、いちばん相性の悪い組み合わせです。
(5) 塩分を控える
味が濃いと喉が渇いて水分が増える、というだけではありません。減塩そのもので夜間の排尿回数が減ったという報告もあります。「みそ汁を1日1杯までにする」「麺類の汁を残す」——まずは、この2つからで構いません。
(6) お薬手帳を持って、一度相談する
これは意外と見落とされます。血圧の薬の中には足のむくみを起こしやすいものがありますし、利尿薬は飲む時間帯によって夜のトイレを増やすことがあります。
絶対に自己判断で中止・変更しないでください。お薬手帳を持って、処方した先生に「夜のトイレが多い」と伝える。やっていただきたいのは、それだけです。
タイプ②「蓄尿障害」への対策

1回の量が少ない。トイレに行ったばかりなのに、また行きたくなる。この場合、生活の工夫だけでは限界があります。
背景には、男性なら前立腺肥大症、男女ともに過活動膀胱、女性では骨盤臓器脱が関係していることがあります。
ここが大事なところですが、これらは治療法がある病気です。効果の期待できる薬がありますし、女性の場合は骨盤底筋トレーニングが効くこともあります。
「年のせい」で我慢し続けるのが、いちばんもったいないタイプです。排尿日誌を持って、泌尿器科を受診してください。
タイプ③「睡眠の問題」への対策

目が覚めるからトイレに行くのか。トイレに行きたくて目が覚めるのか。「目が覚めたついでに、念のため行っている」——そう感じる方は、こちらのタイプです。
寝室を暗く静かに保つ、寝る前のスマートフォンを控える、朝に光を浴びる。基本的なことですが、きちんと効きます。
いびきが大きい方は、睡眠時無呼吸の可能性も
- いびきが大きい
- 寝ている間に呼吸が止まっている、と家族に言われた
- 日中に強い眠気がある
この場合、睡眠時無呼吸症候群が夜間頻尿の原因になっていることがあります。呼吸が止まると、心臓から尿を増やすホルモンが出るためです。これは治療によって夜のトイレごと改善することがあります。
ご本人ではなかなか気づけません。同居のご家族に、一度、寝ているときの様子を聞いてみてください。
様子を見てはいけない危険なサイン

夜のトイレが増えたのと同じ時期に、次の症状はありませんか。
- 息切れがする。階段や坂道で息が上がるようになった
- 横になると苦しくて、起き上がると楽になる
- 両足のむくみが強い
- 数日で体重が2〜3kg増えた
これは心臓の働きが落ちているサインのことがあります。夜間頻尿が心不全の最初の症状として現れることは、珍しくありません。様子を見ずに、内科を受診してください。
そのほか、次の症状も原因を確かめる必要があります。
- 尿に血が混じる(血尿)
- 排尿のときに痛みがある、熱が出た
- 急に、明らかに悪化した
- のどの渇きが強く、体重が減ってきた
「こんなことで受診してもいいのかな」——そう感じる必要は、まったくありません。夜間頻尿は、ただ我慢するだけの症状ではないのです。
そして、対策をやってみたけれど良くならなかった方。どうかご自分を責めないでください。それは努力不足ではなく、タイプが違ったか、別の原因があるというサイン。体が教えてくれている、それだけのことです。
よくあるご質問(FAQ)

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Q. 夜中に何回トイレに起きたら夜間頻尿ですか?
- A. 医学的には夜間に1回以上、排尿のために起きれば夜間頻尿です。ただし1回で困っていなければ心配はいりません。睡眠の分断や転倒リスクがはっきり増えるのは2回以上からで、この場合は原因を調べる価値があります。
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Q. 夜間頻尿は年齢のせいだから治らないのでしょうか?
- いいえ。加齢は背景のひとつですが、3つのタイプそれぞれに対策・治療があります。特に前立腺肥大症や過活動膀胱が背景にある場合は、薬物療法で改善が期待できます。
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Q. 自分のタイプはどう見分けますか?
- A. 2〜3日の排尿日誌をつけ、夜間尿量÷24時間尿量を計算します。65歳以上で33%超、65歳未満で20%超なら夜間多尿タイプの可能性が高くなります。1回排尿量が200mLに届かないことが多ければ蓄尿障害タイプが疑われます。
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Q. 水分は控えたほうがよいですか?
- A. 控えすぎは危険です。目安は飲み物からの水分で体重1kgあたり20〜25mL程度。量を減らすより、就寝4〜6時間前からカフェイン飲料とアルコールを控えるなど、時間帯と種類の工夫を優先してください。
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Q. 市販の漢方やサプリメントは効きますか?
- A. まずタイプを確かめることが先です。タイプに合っていなければ、費用と時間だけがかかってしまいます。また、ほかの薬を服用中の方は飲み合わせの確認も必要ですので、受診時にお持ちください。
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Q. 夜間頻尿は何科を受診すればよいですか?
- A. まずは泌尿器科です。前立腺肥大症、過活動膀胱、骨盤臓器脱など、泌尿器科で治療できる原因が多いためです。息切れやむくみを伴う場合は内科の評価も必要になります。当院は泌尿器科と内科の両方を診療しているため、まとめて評価できます。
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Q. 受診のとき、何を持っていけばよいですか?
- 排尿日誌(2〜3日分)とお薬手帳です。この2つがあるだけで、原因の絞り込みが大きく早くなります。健診結果があればあわせてお持ちください。
今日いちばんやっていただきたいこと

今日の要点をまとめます。
- 夜間頻尿には3つのタイプがあり、効く対策が違う
- だからまず、2〜3日の排尿日誌で自分のタイプを知る
- 夜間多尿タイプなら、夕方の足上げと運動、日中の弾性ソックス、飲み物と塩分の見直し
- 息切れやむくみを伴うときは、様子を見ない
今日いちばんやっていただきたいのは、たった一つ。今夜から、排尿日誌をつけてみることです。特別な道具も費用も、ほとんどかかりません。そしてその記録は、受診したときにそのまま最良の資料になります。
夜、眠れるようになると、昼が変わります。日中の元気も、集中力も戻ってきます。朝までぐっすり眠れる日々を、一緒に取り戻していきましょう。


