
「ステージ4なのに、なぜあんなに元気なんだろう。」
そう感じたことはないでしょうか。
前立腺がんの「ステージ4」と聞くと、多くの方が「末期」「もう長くない」というイメージを持たれます。しかし実際には、ステージ4と診断されても、治療を続けながら長期間元気に過ごしている患者さんがたくさんいらっしゃいます。
泌尿器科医として前立腺がんの診療にあたる立場から、なぜそのようなことが起こるのかを、今日は3つの理由に整理してお伝えします。
前立腺がん「ステージ4」は本当に末期なのか

日本では毎年およそ10万人が新たに前立腺がんと診断されており、その中には診断された時点ですでにステージ4という方も含まれています。
前立腺がんのステージ4とは、がんが前立腺の外に広がり、膀胱や直腸などの臓器に浸潤している場合や、骨盤内のリンパ節、あるいは骨・肺・肝臓など離れた場所に転移がある状態を指す分類です。
進行した状態であることは間違いありません。しかし、それは「すぐに命に関わる状態」と同じ意味ではありません。転移があっても、その量や場所によっては自覚症状がほとんどなく、普段どおりの生活を送っている患者さんが実際にいらっしゃいます。
ステージという分類は、がんの広がり方を示す目安であって、その人の余命そのものを直接示すものではないということを、まず知っておいていただきたいと思います。
同じステージ4でも、状態は人によって大きく違う

同じ「ステージ4」という診断でも、患者さん一人ひとりの状態は大きく異なります。次の3つのポイントで見え方が変わってきます。
- 転移の範囲:骨盤内のリンパ節だけにとどまっているか、骨や内臓など体の離れた場所にまで広がっているか
- 転移の量:骨に小さな転移が数カ所だけか、全身の骨に多数の転移が広がっているか(前立腺がんは特に骨に転移しやすい特徴があります)
- がんの悪性度:がん細胞の性質によって進行のスピードには差があり、治療の強度や組み合わせ方も変わってきます
つまり「ステージ4」というひとつの言葉だけでは、その人の今の状態やこの先の見通しを正確に判断することはできません。転移の量や場所、がんの性質まで含めて、主治医と一緒に確認していくことが何より大切です。
理由①ホルモン療法がよく効く

前立腺がんがステージ4でも長期間コントロールできる大きな理由のひとつが、ホルモン療法です。
前立腺がんの多くは男性ホルモンを利用して増殖するという性質を持っています。そこで、男性ホルモンの分泌や働きを抑える薬を使うことで、がんの勢いを抑え込むことができます。方法としては、精巣で作られる男性ホルモンの分泌を抑える注射薬や、男性ホルモンが細胞に作用するのをブロックする飲み薬などがあり、これがステージ4の前立腺がんにおける治療の中心となっています。
ホルモン療法は、がんを完全に消し去る治療というよりも、がんの勢いを抑えながら長く付き合っていくための治療という考え方に近いものです。転移があっても、このホルモン療法がよく効くことで、何年もの間がんをコントロールしながら普段どおりの生活を続けられる患者さんが、実際に多くいらっしゃいます。
ただし、長期間続けていると次第に効果が弱まってくることがあります。この状態は「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ばれ、男性ホルモンを抑える治療だけではがんの勢いを十分に抑えにくくなった状態を指します。そうした場合でも、諦める必要はありません。次にご紹介する新しい治療の選択肢が力を発揮する場面だからです。
理由②広がる治療の選択肢

以前は、ホルモン療法を行い、それが効かなくなってから次の治療を考えるという流れが一般的でした。しかし現在では、使える薬の種類が大きく広がっています。
- 新規ホルモン薬:これまでのホルモン療法よりも強力に男性ホルモンの働きを抑える薬。去勢抵抗性になる前の早い段階から組み合わせるケースも増えています
- 抗がん剤:がん細胞そのものの増殖を抑える力があり、ホルモン療法と組み合わせて使われることもあります
- 放射性医薬品:骨に転移したがん細胞を狙い撃ちするように作用し、痛みの緩和にもつながります
- 分子標的薬:遺伝子の特徴に合わせて選択される、一部の患者さんで使われる比較的新しい治療の選択肢です
薬にはそれぞれ副作用がありますので、体調や検査結果を見ながら無理のない範囲で組み合わせを調整していきます。適した患者さんでは、早い段階からこうした治療を複数組み合わせることで、より長い期間がんをコントロールできるケースが増えてきています。
生存率データが示す変化

実際の生存率データを見てみましょう。2014年から2015年に診断されたステージ4の前立腺がんの患者さんを対象にした報告では、がん以外の原因で亡くなった方を除いて計算する「5年ネット・サバイバル」という指標で60.1%という数値が示されています。
これは、交通事故や他の病気で亡くなった方の影響を取り除いた、がんそのものの治療成績をより正確に反映した数値です。
| 指標 | 数値 | 診断年(目安) |
|---|---|---|
| ステージ4の5年ネット・サバイバル | 60.1% | 2014〜2015年 |
| ステージ4の10年生存率 | 約35% | 2012年前後 |
| 前立腺がん全体の10年生存率 | 約84% | 2012年前後 |
一方、1990年代半ばに診断された遠隔転移のある前立腺がんを対象にした過去の報告では、5年相対生存率が3割程度だったというデータもあります。集計方法や対象患者さんの範囲が異なるため単純な比較はできませんが、この間に新しいホルモン薬や治療法が次々と登場し、治療の選択肢が大きく増えてきたことは間違いなく重要な変化です。
先ほどの60.1%という数値も、集計から10年以上が経過しており、その間にも新しい治療法が登場していますから、現在ではさらに改善している可能性が考えられます。統計はあくまで医療機関のデータをもとにした目安であり、実際の診療の現場では、統計よりもずっと長く元気に過ごされている患者さんを数多く経験しています。
「ステージ4でも安心」という単純な話ではありません
ここまでお伝えした内容は、「ステージ4でも安心なんだ」という単純な話ではありません。転移している部位や量、がんの悪性度、治療への反応、年齢や全身の状態によって、経過は患者さんごとに大きく異なります。5年生存率60.1%という数値も、「自分は6割の中に入るはずだ」と単純に当てはめられるものではないのです。骨だけに小さな転移がある方と、複数の臓器に転移が広がっている方とでは、同じホルモン療法を受けていても、その後の経過は大きく異なることがあります。
正しい向き合い方

一方で、「ステージ4だからもう終わりだ」と考える必要もありません。同じ「ステージ4」と診断された方でも、数カ月単位で状態が変化する方もいれば、何年も安定した状態を保てる方もいらっしゃいます。
大切なのは、ステージという言葉だけで一喜一憂するのではなく、自分自身の転移の状態や治療への反応を、主治医とじっくり時間をかけて確認しながら向き合っていくことです。
ご本人・ご家族に今日からできること
- 転移の状態(部位・量)と、使える治療の選択肢について主治医に具体的に質問する
- 一人で抱え込まず、ご家族とも情報を共有する
- 迷うことがあればセカンドオピニオンを活用する
まとめ|ステージ4でも元気に過ごせる3つの理由

今日お話しした内容を整理します。
- 同じステージ4でも、がんの量や広がり方は人によって違うこと
- 前立腺がんの多くは、ホルモン療法が効きやすいこと
- 治療の選択肢がこの数十年で大きく増えてきたこと
「ステージ4」という言葉だけで、その先の余命やこれからの生活を決めつけることはできません。正しい知識を持って、自分自身の状態と向き合っていただきたいと思います。
よくある質問

Q. 前立腺がんでステージ4と言われたら、余命はどれくらいですか?
ステージという分類だけでは正確な余命は分かりません。転移の部位や量、がんの悪性度、治療への反応によって経過は大きく異なります。主治医と一緒に、ご自身の転移の状態を具体的に確認することが大切です。
Q. ステージ4でも治療をすれば治りますか?
「完治」という意味では難しい場合が多いですが、ホルモン療法をはじめとする治療で、がんの勢いを長期間コントロールしながら普段どおりの生活を続けられる患者さんは多くいらっしゃいます。
Q. ホルモン療法はいつまで続けるのですか?
効果が続く限り継続するのが基本で、多くの場合は長期間、あるいは生涯にわたって続けます。効果が弱まってきた場合は「去勢抵抗性前立腺がん」として、新規ホルモン薬や抗がん剤など次の治療を検討します。
Q. 去勢抵抗性前立腺がんになったら、もう治療法はありませんか?
いいえ、諦める必要はありません。新規ホルモン薬、抗がん剤、放射性医薬品、分子標的薬など、この数十年で治療の選択肢は大きく広がっています。体調や検査結果に応じて組み合わせを検討します。
Q. ステージ4と診断されたら、まず何をすればよいですか?
まずは転移の部位や量、使える治療の選択肢について主治医に具体的に質問することをおすすめします。一人で抱え込まず、ご家族と情報を共有し、迷うときはセカンドオピニオンを活用するのも一つの方法です。
YouTube「命をつなぐ予防医療チャンネル」では、前立腺がんについてさらに詳しく解説しています。
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