
夜中に一度、トイレで目が覚める。時計を見ると、また2時。
布団に戻っても、なかなか寝つけない——。
所沢いそのクリニックの外来には、こうしたお悩みで来院される方が毎日いらっしゃいます。
「夕方は足を上げるといい」
「お風呂はぬるめがいい」
「寝る前のスマホはよくない」。
夜間頻尿の対策は、当院のブログやYouTubeでもいくつもお伝えしてきました。
ですが、診察室でいちばん多く聞かれるのは、この質問です。
「先生、結局どれから、いつやればいいんですか」
そうなのです。知識をバラバラに持っているだけでは、夕方から寝るまでの数時間に何をどの順番でやればいいのかがわからない。
そして結局「今日はまあいいか」で終わってしまいます。
ですのでこの記事では、新しい対策の話はしません。
すでにお伝えしてきた対策を「時間の順番」に並べ直します。
やることは同じでも、順番を決めるだけで続く確率がまるで変わります。
そして最後に、この順番で1ヶ月続けても変わらないときに何を疑うべきか——ここがいちばん大事なところです——をお話しします。
まず全体像:覚えるのは4つの時刻だけ

細かい話に入る前に、全体像からお見せします。就寝時刻を22時と仮定した場合の時間割です。
| 時刻 | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 15時 | 足を心臓より10〜15cm高くして15分横になる | 下半身に溜まった水分を、起きているうちに尿として出す |
| 18時 | 夕食は塩分控えめに、30分ほどかけてゆっくり | 体に水分を溜め込ませない |
| 夕食後 | 水分はコップ1杯(約200mL)を目安に、ダラダラ飲まない | 夜間の尿量の上乗せを防ぐ |
| 20時 | 38〜40℃のお風呂に10〜15分。上がったら画面を見ない | 深部体温の低下を利用して眠りを深くする |
| 22時 | トイレを1回済ませ、布団の中で骨盤底筋体操を10回 | 膀胱に余裕をつくり、習慣の入り口をつくる |
就寝時刻が23時の方は、全体を1時間うしろにずらしてください。大切なのは絶対時刻ではなく、「就寝の何時間前か」という間隔です。
15時:足を上げて15分横になる

最初にやっていただきたいのは、夕方の脚上げです。ソファや布団を使い、足を心臓より少し高く、10〜15cmほど上げて15分ほど横になるだけ。テレビを見ながらで構いません。
なぜ「夕方」でなければいけないのか
日中、立ったり座ったりして過ごしていると、重力によって水分が少しずつ下半身に溜まっていきます。夕方に足がだるい、靴下のゴム跡が残る、指で押すとへこんで戻りにくい——あれが、溜まった水分のサインです。
そして夜、横になると、その水分が血管に戻り、腎臓へ流れ込み、夜のあいだの尿量を増やしてしまいます。
だから、夕方のうちに重力の助けを借りて水分を体の中心に戻し、まだ起きているうちに尿として出しておく。これが狙いです。寝る直前に足を上げても、戻った水分が尿になるまでの時間が足りません。夕食前のこの時間帯だからこそ意味があります。
日中の過ごし方も、ひとつだけ
座りっぱなし、立ちっぱなしが続くと、ふくらはぎのポンプが働かず、水分が足元に溜まります。2時間に1回、かかとの上げ下げを30回。椅子に座ったままでもできます。
むくみが強い方は、弾性ストッキングも選択肢です。起きている間だけ着用し、就寝中は外してください。
足の動脈が細くなっている方(閉塞性動脈硬化症)が締めつけると、かえって危険です。心不全や腎不全で治療中の方も同様です。必ず主治医にご相談のうえ、圧の強さを決めてください。
片方の足だけが急に腫れて、痛みや熱感がある。このときは脚を上げたりマッサージをしたりせず、すぐに医療機関を受診してください。血管に血の塊ができている可能性があります(深部静脈血栓症)。息切れや胸の痛みを伴う場合は、なおさら急いでください。
18時:夕食は塩分控えめに、ゆっくり

次は夕食です。ポイントは塩分とスピードの2つ。
塩分:まずは「2〜3g減らす」だけでいい
塩分を摂りすぎると、体は水分を溜め込みます。溜め込んだ水分は、夜、横になったときにそのまま夜間の尿量に上乗せされます。実際に、塩分摂取が多い方が減塩すると夜間の排尿回数が減ったという報告もあります。
では、どこまで減らせばいいのか。ここははっきり分けてお話しします。
| 対象 | 1日の目標 |
|---|---|
| 高血圧・慢性腎臓病で治療中の方 | 6g未満 |
| 上記以外の男性 | 7.5g未満 |
| 上記以外の女性 | 6.5g未満 |
| (参考)日本人の平均摂取量 | 男性 約10g/女性 約9g |
つまり、多くの方が2〜3gほど摂りすぎています。逆に言えば、そのぶんを削るだけでいい。最初から完璧を目指す必要はありません。
削りやすいのは「隠れ塩分」です。
- 汁物は1日1杯までにする(具を多く、汁を少なく)
- 漬け物、加工食品を減らす
- 麺類の汁は残す
- 醤油やソースは直接かけず、小皿につける
- 物足りなければ、昆布・かつお節の出汁、しそ・みょうがなどの香味野菜で旨味を足す
腎機能が落ちている方、血圧の薬のうち体内のカリウムを上げやすいタイプ(ARB・ACE阻害薬・カリウム保持性利尿薬)を飲んでいる方は、必ず主治医か薬剤師にご相談ください。カリウムが高くなりすぎると、不整脈の原因になります。
スピード:30分かけてゆっくり食べる
もうひとつが食べる速さです。夕食は30分ほどかけて、ゆっくり。
ここは正直にお伝えします。「早食いをやめれば、その夜のトイレがすぐ減る」という直接の効果を示す根拠を、私は把握していません。ゆっくり食べることが効いてくるのは、体重、そして食後の血糖の安定を通じて、数ヶ月かけて体を変えていく道筋です。
ただし例外があります。血糖値が高い状態が続いている方は、糖と一緒に水分が尿に引っ張られ、それ自体が夜間の尿量を増やします。健康診断でHbA1cを指摘されている方は、そちらの対応を優先してください。
夕食後:水分は「ダラダラ飲まない」

夕食が終わったら、水分の摂り方です。
まず大前提として、1日の水分はしっかり摂ってください。目安は体重1kgあたり20〜25mL。体重60kgの方なら、1日1.2〜1.5Lほどです。食事に含まれる水分も入れての量です。
問題は、その配分です。日中に少ししか飲まず、夜になってまとめて飲む——これがいちばん、夜のトイレを増やします。
ですので、夕食後から寝るまでは、コップ1杯(200mL程度)を目安に、ダラダラ飲まない。お風呂上がりの1杯も、この中に含めて数えてください。入浴前後の水分はつい別枠で考えがちですが、同じ「夕食後の水分」です。
夏場、汗をかいた日、体調の悪い日は、迷わず飲んでください。特にご高齢の方が水分を我慢しすぎると、脱水から血が固まりやすくなったり、熱中症につながったりします。夜のトイレを1回減らすために救急車を呼ぶことになっては、本末転倒です。心不全や腎不全で医師から水分量の指示が出ている方は、この目安ではなく主治医の指示に従ってください。
喉が渇いたときは、小さな氷をゆっくり口の中で溶かす。あるいは、カフェインの入っていない温かい飲み物を少量、ゆっくり。冷たいものより温かいもののほうが、少ない量でも満足しやすいという特徴があります。
20時:ぬるめのお風呂に10〜15分

続いて入浴です。ポイントは温度と時刻の2つ。
- 温度は38〜40℃のぬるめ
- 時間は10〜15分
- 就寝の1時間半〜2時間前に済ませる(22時に寝るなら20時ごろ)
なぜ、この時刻なのか
入浴すると、体の内側の温度(深部体温)が一時的に上がります。その後、ゆるやかに下がっていく過程で自然な眠気が訪れます。この「下がっていく時間」を確保するために、寝る直前ではなく1時間半〜2時間前なのです。
熱すぎるお湯は、体を興奮させる神経(交感神経)を刺激して、かえって寝つきを悪くします。「熱いほうが温まった気がする」は、夜間頻尿対策としては逆効果です。
入浴には、もうひとつの意味がある
温まって血のめぐりがよくなることで、日中に足に溜まった水分が体の中心に戻ります。夕方の脚上げと同じ働きです。だからこそ、お風呂上がりに一度トイレに行きたくなる方が多いのです。それは悪いことではありません。夜に出るはずだった水分を、起きているうちに出せているということです。
心臓の病気や高血圧で入浴の指導を受けている方、糖尿病で足先の感覚が鈍くなっている方は、この目安ではなく主治医の指示を優先してください。また冬場は、脱衣所と浴室を暖めておいてください。これは夜間頻尿とは別の意味で、命に関わる大事な工夫です。
入浴後:画面を見ない

お風呂から出たら、スマホとテレビを置いてください。部屋の照明を少し落として、静かに過ごす。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい「順番の意味」が出るところです。せっかく入浴で眠気の波が近づいてきているのに、そこで明るい画面を見てしまうと、その波に自分で水を差すことになります。入浴とスマホは、打ち消し合う関係にあるのです。
「画面を見ない時間、何をすればいいのか」
よくいただく質問です。おすすめは3つ。
- 簡単な読書
- 軽いストレッチ、または静かな音楽
- 排尿日誌をつける
この3つめの排尿日誌が、実はとても重要です。あとの「受診の目安」でもう一度触れますので、頭の片隅に置いておいてください。
大切なのは「何もしない」ことではありません。目からの刺激を減らして、脳を興奮させないことです。
もうひとつ、よくある失敗を。お風呂上がり、火照ったまますぐ布団に入る。体温が高いままだと、かえって寝つけません。少し時間を置いて、落ち着いてから布団へ。先ほどの「1時間半〜2時間前」は、このための時間でもあります。
22時:トイレを済ませて、骨盤底筋を10回

そして就寝前です。まず、もう一度トイレを済ませてください。
ここで注意していただきたいのは、「念のため」に何度もトイレに行かないこと。尿が少ししか溜まっていないのに通う癖がつくと、膀胱が少ない量で反応するようになってしまいます。寝る前は1回で十分です。
布団に入ったら、骨盤底筋体操を10回。肛門やおしっこを我慢するときのように、骨盤の底の筋肉をキュッと締めて、ゆっくり緩める。寝たままできますので、そのまま眠ってください。
寝る前の10回だけでは治りません。それでも勧める理由
正直にお伝えしておきます。寝る前の10回だけで、尿もれが治るわけではありません。本当に効果を出すには、1日に合計40〜50回程度を、3ヶ月ほど続ける必要があります。
ではなぜ、就寝前の10回をおすすめするのか。それは、これが歯磨きのように「必ず思い出せる場所」だからです。まず寝る前の10回で習慣の入り口をつくる。慣れてきたら、日中にも回数を足していく。この順番が、いちばん続きます。
1ヶ月続けても変わらないとき、疑うべきこと

ここからが、いちばん大事な話です。
この順番を1ヶ月続けても、夜のトイレの回数がまったく変わらない。そのときは「努力が足りない」のではありません。生活習慣以外の原因が隠れている可能性があります。
まず、排尿日誌で2つの数字を確かめる
何時に、どれくらいの量が出たかを、2〜3日分書き出してください。見るのは次の2点です。
| 日誌の所見 | 考えられるタイプ | 対応 |
|---|---|---|
| 夜間の尿量が1日全体の3分の1を超える | 夜間多尿 | この記事のむくみ・塩分・水分配分の対策が効きやすいタイプ |
| 1回の量が100mLに届かないのに何度も行きたくなる | 膀胱・前立腺側の問題(過活動膀胱、前立腺肥大症など) | 生活習慣だけでは変わりにくい。泌尿器科での検査・治療が必要 |
生活習慣より先に受診すべき、3つのサイン
- 大きないびきをかく/寝ている間に呼吸が止まっていると家族に言われた
睡眠時無呼吸症候群では、夜間の尿量そのものが増えます。治療によって夜のトイレが減る方は少なくありません。 - 足のむくみに加えて、坂道や階段で息が切れる/体重が数日で急に増えた
心臓の働きが落ちているサインのことがあります。 - 喉が異常に渇く/体重が減ってきた/健診で血糖やHbA1cを指摘された
糖尿病の可能性があります。
血圧の薬や、むくみの薬(利尿薬)は、飲む時間帯によって夜のトイレが増えることがあります。ただし調整が必要かどうかは医師が判断します。「この薬を、この時間に飲んでいます」と主治医に伝えていただければ十分です。
続けるコツ:明日から全部やろうとしないこと

ここまで、脚上げ、減塩の夕食、水分の配分、ぬるめの入浴、画面を避ける、骨盤底筋——とお伝えしてきました。ひとつひとつは、決して難しいものではありません。
ですが、明日から全部やろうとしないでください。まず間違いなく、続きません。
おすすめは、いちばん上の1つだけ。「夕方に15分、足を上げて横になる」——これだけを1週間続けてみる。慣れたら「お風呂の温度を下げる」を足す。これで十分です。
| 対策 | 目安の期間 |
|---|---|
| むくみ対策(脚上げ・かかと上げ) | 早ければ1〜2週間 |
| 減塩 | 2〜4週間 |
| 骨盤底筋体操 | 3ヶ月(1日40〜50回) |
足が軽くなった、夜中に起きる回数が1回減った。そうした小さな変化から、まず実感してください。
よくあるご質問
Q. 夜中に何回トイレに起きたら「夜間頻尿」ですか?
A. 医学的には、夜間に排尿のために1回以上起きる状態を夜間頻尿と呼びます。ただし治療の対象になるかどうかは回数だけでは決まりません。2回以上になると生活の質が下がり、転倒・骨折のリスクも上がることが知られています。ご本人が困っていれば、1回でも受診の理由になります。
Q. 夕方に足を上げるのは、いつ・何分がいいですか?
A. 夕食前の15〜17時ごろに、15分程度が目安です。足は心臓より10〜15cm高くします。寝る直前に上げても、戻った水分が尿になる時間が足りないため効果が出にくくなります。
Q. 夜のトイレを減らすには、水分を控えたほうがいいですか?
A. 1日の総量は減らさないでください。目安は体重1kgあたり20〜25mLです。減らすのではなく「配分」を変えます。日中にしっかり摂り、夕食後から就寝までをコップ1杯(約200mL)程度に抑えるのがポイントです。ただし夏場や発汗時、体調不良時は我慢せず飲んでください。
Q. お風呂は寝る何時間前に入るのがよいですか?
A. 就寝の1時間半〜2時間前です。38〜40℃のぬるめのお湯に10〜15分。上がった深部体温が下がる過程で眠気が訪れるため、この間隔が必要になります。熱いお湯は逆効果です。
Q. 減塩は1日何グラムを目標にすればいいですか?
A. 高血圧や慢性腎臓病で治療中の方は6g未満、それ以外の方は男性7.5g未満・女性6.5g未満が目安です。日本人の平均は男性約10g・女性約9gですので、まずは汁物・漬け物・麺類の汁といった「隠れ塩分」を2〜3g削るところから始めてください。
Q. 骨盤底筋体操は、どのくらいで効果が出ますか?
A. 1日合計40〜50回を3ヶ月ほど続けるのが目安です。寝る前の10回だけでは足りませんが、忘れずに思い出せる「習慣の入り口」として、まず就寝前から始めることをおすすめしています。
Q. 1ヶ月続けても夜のトイレが減りません。どうすればよいですか?
A. 努力不足ではなく、生活習慣以外の原因が隠れている可能性があります。2〜3日分の排尿日誌をつけて、泌尿器科を受診してください。特に、大きないびき・呼吸が止まる(睡眠時無呼吸症候群)、息切れや急な体重増加(心不全)、口渇や体重減少(糖尿病)に心当たりがある場合は、生活習慣の改善より受診を優先してください。
Q. 血圧の薬や利尿薬を飲む時間を、自分でずらしてもいいですか?
A. 絶対に自己判断で変えないでください。飲む時間帯が夜間頻尿に影響することはありますが、調整の可否は医師が判断します。「この薬をこの時間に飲んでいます」と主治医に伝えてください。
所沢いそのクリニックでの夜間頻尿の診療
当院は、埼玉県所沢市東所沢で泌尿器科・内科・女性泌尿器科を診療しています。所沢市のほか、入間市・狭山市・東村山市・川越市からも多くの患者さんにお越しいただいています。
夜間頻尿では、まず排尿日誌をもとに「夜間多尿タイプ」か「膀胱・前立腺タイプ」かを見分けたうえで、尿検査・超音波検査(残尿測定)・血液検査などを行い、原因に応じた治療をご提案します。生活習慣の指導だけで終わらせず、睡眠時無呼吸症候群や心不全、糖尿病といった背景疾患の有無まで含めて評価します。
「年のせいだから」と諦めていた夜間頻尿が、原因を特定するだけで大きく改善する方は少なくありません。2〜3日分の排尿日誌をお持ちいただけると、初診でより正確な評価ができます。

