
夜中に2回以上トイレに起きる。血圧の薬もきちんと飲んでいる。それなのに夜のトイレだけが減らない
——もしあなたがそうなら、原因は膀胱ではなく「血圧」、それも自分では測れない「夜の血圧」にあるかもしれません。
夜だけ血圧が下がらない人は、脳卒中で亡くなるリスクが2倍以上高いというデータもあります。
泌尿器科と内科の両方を診ている立場から、高血圧と夜間頻尿がなぜセットで起きるのか、今日からできる対策とあわせて解説します。
夜間頻尿の3つのタイプ、今日の主役は「夜間多尿」

「夜中のトイレは年のせい」「寝る前に水を飲みすぎたかな」——そう考えて、何年もそのままにしている方は少なくありません。しかし、健診で血圧が140を超えていた方、あるいは降圧薬を服用中の方の夜間頻尿は、少し事情が異なります。
夜中にトイレで目が覚める原因は、大きく3つに分けられます。
- 夜間多尿:夜だけ尿がたくさん作られるタイプ
- 膀胱の問題:膀胱に尿を溜めておけないタイプ
- 睡眠の問題:眠りが浅く、尿意とは別の理由で目が覚めるタイプ
今回取り上げるのは、このうち血圧と深く結びついている「夜間多尿」です。体を「水道管」と「ポンプ」に例えながら、なぜ夜だけ尿量が増えるのか、その仕組みを3つご紹介し、今夜からできる対策を3つお伝えします。
なぜ夜だけ尿量が増えるのか?3つのメカニズム

メカニズム① 昼に出しきれなかった塩分が、夜にずれ込む
高血圧にはいくつかのタイプがあり、そのなかに「食塩感受性高血圧」という、塩分をとると血圧が上がりやすいタイプがあります。日本の高血圧患者のおよそ4割がこのタイプと推定されています(確信度:中/研究によって幅がある推定値です)。
このタイプの体では、塩分をとりすぎると血液中の塩分濃度を薄めようとして水分を抱え込み、血管内の量が増えて血圧が上がります。そこで腎臓が「余分な塩分を尿として捨てよう」と動き始めます。水道管の圧力が上がりすぎたときに弁を開けて水を逃がす、そんなイメージです。
問題はタイミングです。本来、塩分を排出する作業は日中に済ませたいところですが、塩分の摂取量が多すぎたり排出力が落ちていたりすると、昼のうちに出しきれません。すると体は夜になっても塩分を出し続け、結果として夜間の尿量そのものが増えてしまいます。
長崎大学が728人を対象に行った研究では、塩分摂取量が多い人ほど夜間の尿量が多く、1日の尿量に占める夜間の割合も高いことが報告されています。塩分摂取量の多い夜間頻尿の方に減塩を行ってもらった研究では、夜間の排尿回数そのものが減少したというデータもあります。
つまり夜間頻尿は「体が血圧を下げようとして、夜まで残業している状態」ともいえます。その残業が毎晩続いているとすれば、そもそもの仕事量——塩分の摂取量が多すぎるサインでもあります。
メカニズム② 心臓が出す「SOSホルモン」
血圧が高い状態が続くと、心臓は高い圧力に逆らって血液を送り出し続けることになり、ポンプにとってはかなりの負担です。負担が続くと心臓の壁が引き伸ばされ、そこからANP・BNP(ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンが分泌されます。
これは「体の中の水分と塩分が多すぎる、減らしてほしい」という心臓からのSOSで、腎臓に届くと尿の生成が促されます。また、横になると日中に足へ溜まっていた水分が心臓へ戻り、心臓がさらに引き伸ばされてこのホルモンが増えることも、就寝後1〜2時間ほどで最初のトイレに起きる理由の一つとされています。
日本の研究でも、高齢者でBNP値が高い人ほど1日の尿量に占める夜間の割合が大きいことが報告されています。夜間頻尿に加えて、少し動くと息切れがする、夕方に足がむくみ靴下の跡が深く残る、横になると息苦しく枕を高くしたくなる——こうした症状が重なる場合は、心臓の検査(BNP採血)を受けることをおすすめします。「トイレが近いだけ」と思っていた症状が、心不全のサインだったというケースは珍しくありません。
メカニズム③ 夜だけ、血圧が下がっていない(夜間高血圧)
健康な人の血圧は、睡眠中に日中より10〜20%ほど下がります。体を休ませるための自然なリズムです。ところが、このリズムが崩れて夜になっても血圧が下がらない人、なかには昼より上がってしまう人がいます。日本高血圧学会は、睡眠中の平均血圧が120/70mmHg以上の状態を「夜間高血圧」と定義しています。
血圧が正常に低下する人と比べ、夜間になっても血圧が下がらない人は脳卒中による死亡リスクが約2.6倍、夜むしろ血圧が上がってしまう人は約3.7倍という報告があります。しかもこの夜間高血圧は、健診や朝晩の家庭血圧測定では見つからないことがあります。昼間の数値は正常なのに、夜だけ高い——だから気づかれにくいのです。
腎臓は送られてくる血液の圧力が高いと「塩分と水を捨てなさい」という指令を受け取ります。夜も血圧が高いままだと腎臓は夜も塩分を出し続けるため、夜間の尿量が増えます。つまり、メカニズム①と③は同じ現象の表と裏なのです。
夜中に何度もトイレに起きるという症状は、自分では測れない「夜の血圧」を映してくれる数少ない手がかりです。当院の外来でも、夜間頻尿をきっかけに詳しく調べたところ、昼の血圧は問題ないのに夜だけ高かったという方が何人もいらっしゃいました。泌尿器科でありながら血圧の話をするのは、体の中では排尿と循環器が地続きだからです。
見落とされやすい、もう2つの原因

ここまでの3つの仕組みに加え、外来でよく見つかる原因が2つあります。どちらもご自身では気づきにくいものです。
降圧薬の種類と服用タイミング
利尿薬は尿を出して血圧を下げる薬のため、服用する時間が遅いと効果が夜にずれ込むことがあります。また、よく使われる降圧薬であるカルシウム拮抗薬は、副作用として足のむくみが出ることがあり、日中に足へ溜まった水分が就寝後の尿として現れることがあります。
睡眠時無呼吸症候群
寝ている間に呼吸が止まると体が低酸素状態になり、交感神経が興奮して夜間の血圧が上がります。同時に、息を吸おうとして胸の中が強く引っ張られることで心臓が刺激され、SOSホルモン(ANP・BNP)が分泌されます。つまり睡眠時無呼吸症候群は、夜間高血圧と夜間頻尿の両方を同時に引き起こしうる共通の原因です。
いびきが大きい、途中で息が止まっていると指摘される、日中に強い眠気がある、朝起きたときに頭が重い——これらに夜間頻尿が重なっている場合は、検査を受ける価値があります。自宅でできる簡易検査もあり、治療によって夜間の排尿回数が減る方もいらっしゃいます。
今夜からできる3つの対策

対策① 減塩を、もう一度本気でやる
ここまでの仕組みは、いずれも塩分につながっています。つまり減塩は3つの仕組みにまとめて効く土台の対策です。
| 目安 | 1日の食塩摂取量 |
|---|---|
| 高血圧のある方(日本高血圧学会の基準) | 6g未満 |
| 高血圧のない男性 | 7.5g未満 |
| 高血圧のない女性 | 6.5g未満 |
| 日本人の平均摂取量(参考) | 約9.6〜10g |
「味が薄いと食べた気がしない」という声はよく聞きますが、レモンや酢の酸味、生姜やねぎ・こしょうの香り、出汁のうま味を活用すると、塩を減らした物足りなさは驚くほど埋まります。また、夜に塩分をとるとその処理が就寝後にずれ込むため、同じ6gでも夕食は軽めにするほうが夜間頻尿には有利です。
対策② 血圧を「測るタイミング」を増やす
朝と就寝前の血圧を測っても、夜間高血圧そのものは分かりません。夜の血圧は睡眠中に測らないと分からないためです。ただし、次のような場合は夜も血圧が高いままだった可能性があり、手がかりになります。
- 朝起きたときの血圧が、寝る前より明らかに高い
- 朝の家庭血圧が135/85mmHgを超えている
朝はトイレを済ませてから座って1〜2分休んでから、夜は寝る直前にリラックスした状態で、1週間ほど血圧を記録してみてください。その記録を主治医に見せ、「夜も測れませんか」と相談すると、24時間血圧計や夜間も測定できる家庭血圧計での評価につながることがあります。
対策③ 主治医に伝える3つのこと
診察室で「夜のトイレが多いんです」と言い出せないまま、何年も過ごしている方は少なくありません。次の受診で、以下の3つを伝えてみてください。
- 夜中に何回トイレに起きるか(回数で伝える)
- 朝と寝る前の血圧の記録
- いびきを指摘されたことがあるか、足がむくむか
この3つが揃うと、薬を調整すべきか、心臓を調べるべきか、睡眠を調べるべきか、医師の側で判断がしやすくなります。夜間頻尿は、患者さんが言い出さない限り診察室では表に出てこない症状です。どうか伝えてください。それだけで、対策が前に進みます。
📖 新刊のお知らせ

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まとめ

夜間頻尿の背景には、①昼に出しきれなかった塩分が夜にずれ込む、②心臓が出すSOSホルモンが尿を増やす、③夜だけ血圧が下がっていない(夜間高血圧)という3つの仕組みがあります。加えて、降圧薬の種類やタイミング、睡眠時無呼吸症候群も見落とされやすい原因です。
どれも「膀胱の老化」では説明がつきません。夜のトイレは年のせいではなく、心臓と血管からのお知らせであることが少なくないのです。今夜からできることは、夕食の塩分を少し減らす、朝と寝る前の血圧を測って記録する、次の受診で夜のトイレのことを口に出す——この3つです。血圧の管理と夜間頻尿の対策は、別々のものではなく一つのつながりとして捉え直していただければと思います。
よくある質問
Q. 夜間頻尿と高血圧には、どのような関係がありますか?
塩分の排出が夜にずれ込むこと、心臓の負担で分泌されるANP・BNPというホルモン、そして睡眠中に血圧が下がらない「夜間高血圧」の3つが関係しています。いずれも夜間の尿量を増やす方向に働きます。
Q. 夜間高血圧はどうすれば分かりますか?
通常の朝晩の家庭血圧測定だけでは分かりません。朝の血圧が寝る前より高い、または朝の家庭血圧が135/85mmHgを超える場合は疑いがあり、24時間血圧計など睡眠中も測定できる機器での評価が必要です。主治医にご相談ください。
Q. 血圧の薬を飲んでいるのに、夜間頻尿が改善しません。なぜですか?
利尿薬の服用タイミングやカルシウム拮抗薬による足のむくみが影響している場合があります。自己判断で薬を中断・変更せず、「夜のトイレが多い」と主治医に伝え、薬の種類や服用時間を相談してください。
Q. 減塩以外にできる対策はありますか?
朝晩の血圧を記録して主治医に見せること、いびきや日中の眠気があれば睡眠時無呼吸症候群の検査を検討すること、そして受診時に夜間の排尿回数を具体的に伝えることが有効です。
Q. 夜間頻尿は何科を受診すればよいですか?
まずは泌尿器科での相談をおすすめします。夜間頻尿は膀胱・前立腺などの泌尿器科的な原因のほか、高血圧や心臓、睡眠時無呼吸症候群など内科・循環器領域の原因が絡むことも多いため、泌尿器科と内科の両方を診られる医療機関での相談が近道になることがあります。
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