
「夜、何回もトイレに起きる」——その対策として、寝る前の水を減らしていませんか。
実は、夜中のトイレの回数を左右しているのは、コップ一杯の水よりも、その日の「夕食」だったりします。今日は、今夜の食卓から変えられる話です。
外来で夜間頻尿の相談を受けたとき、多くの方が最初にやっているのが「水分を控える」ことです。しかし、水を控えても回数が減らなかった、むしろ日中がだるくなった——そういう方が、実はとても多いのです。
理由はシンプルで、夜の尿量を増やしている本当の原因が、水そのものではなく「塩分」だったりするからです。この記事では、次の内容をお伝えします。
- 最重要の対策である「減塩」の仕組みと目標量
- 見落としやすい「隠れ塩分」の見つけ方
- 夕食後のお酒との付き合い方
- 主食の選び方と食べ方の工夫
夜間頻尿の原因は、食事だけではありません

食事の工夫についてお話しする前に、大事な前提をお伝えします。夜間頻尿の原因は、大きく3つのタイプに分かれます。
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 夜間多尿型 | 夜だけ尿がたくさん作られる |
| 膀胱型 | 膀胱に尿を溜めておけない |
| 睡眠型 | 眠りが浅く、尿意で目が覚める |
今日お話しする食事の工夫が効いてくるのは、主に「夜間多尿型」です。食事を変えれば全員が良くなる、というわけではありません。ただし、夜間頻尿の方の多くにこの夜間多尿が関わっており、しかも食事は今日から自分で変えられる部分です。だからこそ、最初に手をつける価値があります。
最重要の対策は「減塩」

なぜ塩分が夜間の尿量を増やすのか
塩分を摂りすぎると、身体はその濃さを薄めようとして水分を抱え込みます。この水分は日中、重力で足元に溜まっていきます。夕方になると足がむくむのは、そのためです。
そして夜、横になると、足に溜まっていた水分が一気に身体の中心へ戻ります。心臓に戻る血液が増えると「水分が多すぎる」というシグナルが出て、腎臓が余った塩分と水分を尿として出し始めます。これが、夜間の尿量が増える大きな仕組みです。つまり、昼間に摂った塩の後始末を、夜中にトイレでしている、ということになります。
1日の塩分摂取量の目標
| 対象 | 目標量 |
|---|---|
| WHO推奨 | 1日5g未満 |
| 日本人の食事摂取基準(成人男性) | 1日7.5g未満 |
| 日本人の食事摂取基準(成人女性) | 1日6.5g未満 |
| 高血圧のある方 | 1日6g未満 |
| 日本人の実際の平均摂取量 | 1日10g前後 |
数字だけ見ると、かなり厳しく感じるかもしれません。最初から完璧を目指す必要はなく、まずは「今より1グラム減らす」で十分です。そして狙うなら夕食です。夕食は1日で最も量が多くなりやすく、そのあと身体を動かさずに眠る食事だからです。夜の尿量に、いちばん響く一食といえます。
ご注意ください
利尿剤を服用中の方、腎臓の病気がある方、ご高齢で食が細くなっている方は、極端な減塩がかえって体調を崩す原因になることがあります。減塩を強めるときは、必ずかかりつけ医にご相談ください。
見落としやすい「隠れ塩分」に注意

「減塩しているつもりなのに変わらない」——外来でよくお聞きする悩みです。減塩というと食卓で醤油をかける量を減らすイメージが強いですが、それはほんの一部。本丸は加工食品、インスタント食品、練り物、漬け物、干物、そして汁物に含まれる「隠れ塩分」です。
たとえばカップ麺は、スープまで全部飲み干すと、その一杯だけで1日の目標量に迫ってしまうことがあります。逆に言えば、スープを残すだけで数グラム単位で減らせるということです。我慢の中では、コストパフォーマンスの良い工夫といえます。
明日からできる3つの工夫
- 汁物のスープは残す
- 醤油やソースは「かける」から「つける」に変える
- 買うときに栄養成分表示の「食塩相当量」を確認する
物足りないと感じたときは、昆布やかつお節の出汁、しそ、みょうが、生姜などを活用してください。香りと旨味を足すことで、塩を減らしても満足感が残ります。
夕食後のお酒との付き合い方

アルコールには尿を増やす働きがあり、飲んだ量以上に尿が出てしまいます。さらに、寝つきは良くなっても眠りは浅くなり、浅い眠りは尿意で目覚めやすくなることにつながります。つまりお酒は「尿を増やす」と「眠りを浅くする」を同時に引き起こしてしまう、夜間頻尿にとって手強い相手です。
やめる必要はありませんが、まずは寝る3時間前までに切り上げること、おつまみが塩辛いものに偏っていないか見直すこと、このあたりから始めてみてください。
主食の選び方と血糖値の関係

血糖値が高い状態が続くと、糖が尿に出て、その糖が水を引き連れて尿の量が増えることがあります。ただし、これは血糖値がかなり高い場合に起こる現象で、健康な方が夕食後に少し血糖が上がった程度で、その夜のトイレの回数に直結するわけではありません。
それでも主食選びをお伝えする理由は3つあります。体重が増えにくくなること、眠りの質が保たれやすくなること、そして将来の糖尿病を遠ざけることです。糖尿病は夜間頻尿の立派な原因のひとつであり、今日の主食選びは5年後、10年後の夜のトイレへの投資でもあります。
「白いものより、茶色いもの」
白米より玄米や麦ごはん、白いパンより全粒粉のパン、うどんより蕎麦——これくらいのざっくりした感覚で十分です。ただし蕎麦はつゆの塩分に注意してください。
今日から実践できる2つの習慣

ポイント
① 野菜から食べ始める「ベジファースト」
② 白米にもち麦を混ぜる
野菜から食べるのは、食物繊維が後から入ってくる炭水化物の吸収をゆるやかにしてくれるからです。もち麦は大麦の一種で、白米に比べて食物繊維がずっと多く、主食そのもので食物繊維を底上げできます。
分量に迷ったら、白米1合に対して大さじ1〜2杯。炊飯器に一緒に入れて、いつも通り炊くだけです。少しだけ水を多めにすると食べやすく炊き上がります。慣れてきたら割合を増やしていきましょう。食物繊維は血糖の上がり方をゆるやかにするだけでなく、お通じを整え、満腹感を長持ちさせてくれます。
外食が多い方は、主食・主菜・副菜が揃った定食を選び、小鉢やサラダから箸をつけてください。定食がない場合は、カット野菜やミニサラダを1品足して先に食べるだけでも十分です。
ご注意ください
もち麦は大麦です。小麦アレルギーのある方は症状が出ることがあるため、必ず事前に主治医にご確認ください。お腹が張りやすい方も、いきなり増やさず少量から様子を見てください。
食べる量と食べる速さにも注意

もち麦にしたから、野菜から食べたから、と量が増えていませんか。もち麦もベジファーストも血糖の上がり方をゆるやかにする工夫であって、たくさん食べていい理由にはなりません。食物繊維が多い食品でも、量を食べれば摂る糖質の総量は増えます。
もうひとつが速さです。同じものを食べても、早食いで一気にかき込むと血糖は急に上がります。よく噛んでゆっくり食べれば上がり方はゆるやかになります。早食いの自覚がある方は一口ごとに箸を置いてみる、「ながら食べ」の方はまず1食だけテレビやスマホを置いてみる、といったことから始めてみてください。
こんな症状があれば、食事の見直しだけでなく受診を

1か月ほど続けても回数が変わらない、あるいは次のような症状がある場合は、食事の問題だけではない可能性があります。
- 血尿が出た
- 排尿のときに痛みがある
- 尿が出にくい、勢いが弱い
- 足のむくみが強い、息切れがする
- いびきがひどく、日中に強い眠気がある
こうした症状は身体からのサインでもあります。前立腺の病気、糖尿病、心臓の問題、睡眠時無呼吸症候群などが隠れていることがあるため、遠慮なく泌尿器科を受診してください。
まとめ:今夜からできる最初の一歩
もし1つだけ持ち帰るなら「今夜、汁物のスープを残す」ことです。これがいちばん簡単で、いちばん効果を実感しやすい工夫です。余裕があれば、主食にもち麦を大さじ1足してみてください。
食卓の工夫は、夜のトイレのためだけではありません。体重、お通じ、眠りの質、そして10年後の健康、すべてつながっています。
📖 新刊のお知らせ
今回ご紹介した内容を含む減塩レシピや、夜間頻尿・尿もれのセルフケアをまとめた書籍『薬に頼らず頻尿・尿もれを治す方法』(アチーブメント出版)を、2026年9月30日に発売予定です。管理栄養士監修の減塩レシピも分量つきで掲載しています。「薬に頼らず」とありますが、お薬を否定する内容ではなく、必要な方はきちんと使うべきものです。そのうえでご自身でできる工夫をまとめた一冊です。詳細は発売後、あらためてお知らせいたします。
よくある質問
- 減塩すると、なぜ夜のトイレの回数が減るのですか?
- 塩分を摂りすぎると体が水分を抱え込み、日中は足にむくみとして溜まります。横になるとその水分が心臓へ戻り、腎臓が余分な塩分と水分を尿として排出し始めるため、夜間の尿量が増えます。減塩によってこの水分の抱え込みが減ると、夜間の尿量も減りやすくなります。
- 水分を控えるのは逆効果ですか?
- 夜間頻尿の原因が塩分による水分貯留である場合、水分を控えるだけでは改善しないことが多く、日中のだるさなど脱水気味の症状につながることもあります。まずは塩分を見直すことが優先です。ただし持病がある方は自己判断で水分量を大きく変えず、必ずかかりつけ医にご相談ください。
- 1日の塩分摂取量の目安はどれくらいですか?
- WHOは1日5g未満を推奨しています。日本人の食事摂取基準では成人男性7.5g未満、女性6.5g未満が目標値です。高血圧のある方は1日6g未満が目標とされています。日本人の実際の平均摂取量は1日10g前後と言われており、多くの方が目標を上回っています。
- お酒は完全にやめるべきですか?
- 禁酒を必須とするものではありません。アルコールには利尿作用があり、また眠りを浅くする働きもあるため、夜間頻尿には不利に働きやすい飲み物です。まずは就寝の3時間前までに飲み終える、おつまみの塩分を見直す、といった工夫から始めることをおすすめします。
- 食事を変えても夜間の回数が減らない場合はどうすればよいですか?
- 1か月ほど続けても改善しない場合や、血尿、排尿時の痛み、尿の出にくさ、強いむくみや息切れ、日中の強い眠気などがある場合は、食事だけの問題ではない可能性があります。前立腺の病気、糖尿病、心臓の問題、睡眠時無呼吸症候群などが隠れていることがあるため、泌尿器科の受診をおすすめします。

