前立腺がん手術後の尿もれ いつ治る?回復を早める骨盤底筋体操と正しいセルフケア

院長ブログ

こんにちは!所沢いそのクリニック院長の磯野誠です。

「がんが治れば、元の生活に戻れる」
と思っていたのに、退院後もパッドが手放せない毎日。

「一生このままなのか」
と不安を抱えている方は少なくありません。

このページでは、手術後の尿もれがなぜ起こるのか・いつ頃治るのか・回復を早める正しい方法を、順を追ってお伝えします。

また、良かれと思ってやっている行動が、実は回復を遅らせているケースも多くあります。ぜひ最後までご確認ください。

なぜ手術後に尿もれが起こるのか

前立腺がんの手術では、前立腺そのものを体から取り除きます。現在多くの施設で行われているのは「ダビンチ手術」——正式にはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術と呼ばれる方法です。
カメラを使った手術で、傷が小さく体への負担が少ないのが特徴ですが、前立腺を摘出するという点はどの術式でも共通しています。

前立腺は膀胱の出口のすぐ下で、尿道をぐるりと取り囲んでいる臓器です。
尿もれを防ぐ「防波堤」としての役割も担っていました。
手術では前立腺と精嚢を切除し、膀胱と尿道を縫い合わせます。

このとき、尿道を締めて尿もれを防ぐ筋肉「尿道括約筋」がダメージを受けることがあります。
防波堤がなくなり、筋肉もダメージを受けた状態ですから、術後にパッドが必要になるのは当然のことです。

💡 知っておきたいポイント

「自分だけがこんなに漏れるのかな」と感じている方、そうではありません。
手術を受けた方の多くが同じ経験をしています。
術後の尿もれはある意味「正常な経過」であり、適切なケアによって回復を促すことができます。

術後の尿もれ、どれくらい続く?

手術直後は尿もれが起きやすい時期です。以下が、多くの方に共通する標準的な回復の目安です。

術後の時期 多くの方の状態の目安
1〜3ヶ月 日常生活をある程度送れる程度に改善してくる
3〜6ヶ月 さらに落ち着き、パッドの枚数が減ってくる
6ヶ月〜1年 ほぼ安定する方が多い
1年以降 自然回復のペースが大幅に落ちる
⚠ 重要:術後1年以内が勝負

術後1年が近づくにつれて自然回復のペースは大幅に落ちていきます。だからこそ、術後1年以内にどれだけ回復の取り組みを続けられるかが重要です。
今できることを着実に積み上げていきましょう。

回復のスピードには個人差があります。年齢・術前の排尿機能の状態・神経温存ができたかどうかなどの要素が影響します。
「隣の患者さんはもう良くなったのに」と焦る必要はありません。
人と比べるのではなく、自分のペースで続けることが大切です。

パッド枚数で状態を把握する

尿もれの程度を客観的に把握するためには、1日のパッド使用枚数が有効な目安になります。

1日のパッド使用枚数 状態の目安と対応
1〜2枚 比較的軽い状態。骨盤底筋体操の継続が中心
3枚以上 より積極的な対策・医療的な評価が必要な目安

「今日は何枚使ったか」を手帳やスマホのメモに記録しておくと、外来で担当医と正確な情報を共有できます。
「軽くなってきた気がするけど、実際どのくらいですか」と担当医に確認することが、回復の道筋を知る第一歩です。

回復を遅らせている「よくある間違い」

「骨盤底筋体操もやっている、安静にもしている。なのになぜ良くならないのか」
——そう感じている方は、以下の2つに心当たりがないか確認してみてください。

  • NG① 水分を極端に控える
    「もれるのが怖いから、なるべく水を飲まないようにしている」という方は非常に多くいます。
    しかしこれは逆効果です。
    水分を減らすと尿が濃縮され、膀胱の粘膜を刺激してかえって頻尿や膀胱過敏を引き起こしやすくなります
    尿意のコントロールがさらに難しくなるため、水分補給はしっかり続けてください。
    目安は1日1500〜2000ml程度
    一度に多く飲むのではなく、こまめに少量ずつ摂るのがポイントです。
  • NG② 閉じこもって外出しない
    「もれたら恥ずかしい」
    「外で失敗したらどうしよう」
    という気持ちはよく分かります。
    しかし閉じこもることは、リハビリの機会を自ら手放すことになります。
    体を動かさないでいると体全体の機能が落ち、骨盤底筋を含めた筋肉も弱っていきます。
    吸収量の多いパッドを活用して、できる範囲で外に出ることが回復には重要です。
    パッドは視力の悪い方の眼鏡と同じ——術後回復に必要な、正当な道具です。
    ためらわず使ってください。

骨盤底筋体操の正しいやり方

術後の尿もれ回復に最も効果的な対策が骨盤底筋体操です。
骨盤底筋とは、骨盤の底にあって膀胱や尿道を下からハンモックのように支えている筋肉群のこと。
この筋肉を鍛えることで、ダメージを受けた尿道括約筋の機能を補うことができます。

💡 手術前から始めることを推奨

骨盤底筋体操は手術後だけでなく、手術が決まった時点から始めることが推奨されています。
術前から鍛えておくことで術後の回復が早まるという報告があります。
手術前の方は、今すぐ始めてください。

 

基本の体操(仰向けバージョン)

  • 準備姿勢をとる
    仰向けに寝て、足を肩幅に開き、膝を軽く立てます。
    全身の力を抜いてリラックスします。
  • 肛門をぎゅっと締める
    イメージは「おならを我慢するときの感覚」。
    腹筋には力を入れず、お腹を押し出さないよう注意します。
  • 陰部ごと頭の方へ「引き上げる」
    締めた感覚のまま、陰部の付け根ごと頭の方へ「すっと引き上げる」イメージで力を入れます。
    「内側から引き上げる」感覚が正しいです。
  • 5〜10秒キープしてゆっくり力を抜く
    ふわっと筋肉が緩む感覚があれば、正しい場所を使えています。
  • 10回繰り返す(1セット)
    1日に3〜4セットを目標にしてください。
⚠ 効かせるための2つのポイント

お腹や太ももに力が入っている場合、使いたい筋肉に効いていない可能性があります。
①「おならを我慢する感覚で締める」→ ②「内側からすっと引き上げる」
この2ステップを意識するだけで効果が変わります。
担当医や理学療法士に指導してもらうと、より確実です。

慣れてきたら、立った状態や椅子に座った状態でも行えます。
信号待ちやテレビを見ながらでも取り入れられるのが利点です。
地味に見える体操ですが、術後の尿もれ改善への効果は多くの研究で示されています。
毎日続けることが何より重要です

日常生活への影響と対策(仕事・旅行・運動)

場面 目安と対策
デスクワーク復帰 術後1〜2ヶ月で復帰できる方が多い。トイレに近い席の確保を職場に相談できると理想的
立ち仕事・重作業 腹圧がかかると尿もれが出やすいため、もう少し時間がかかる場合が多い
日帰り外出 吸収量の多いパッドを活用すれば退院後早い段階から可能
旅行(日帰り・1泊) 術後3〜6ヶ月以降を目安に。新幹線・飛行機は通路側の席を選ぶと安心
ウォーキング 術後早くから再開できる。回復にも効果的
水泳・ゴルフ 担当医と相談しながら段階的に戻す

「排尿日誌」をつけてみよう

回復を実感するためにも、1日に何回トイレに行ったか・1回の排尿量・もれた量・パッドの枚数を手帳やスマホのメモに記録してみてください。
「先月より1日のパッドが1枚減った」という変化も、記録していれば気づけます。

この積み重ねが体操を続ける力になり、外来で担当医に見せることで的確なアドバイスも受けやすくなります。

💡 精神面のケアも大切に

尿もれが続くと「本当に治るのか」という不安が頭から離れなくなることがあります。
外出を避けたり、人と会うのが億劫になることも自然な反応です。
同じ経験をした方の声が聞ける場や、担当医・看護師への相談を積極的に活用してください。

受診すべきボーダーライン

「様子を見ていればいい」と放置してはいけないケースがあります。
以下のいずれかに当てはまる場合は、早めに担当医に相談してください。

🔴術後6ヶ月を過ぎても、1日のパッドが3枚以上のまま変わらない
改善の傾向が見られないときは、自己流で続けるより専門的な評価と対策が必要です。

🔴骨盤底筋体操をしっかり続けても改善が見られない
体操の方法が合っていない可能性や、別の原因が隠れているケースもあります。担当医に率直に伝えてください。

🔴術後1年を過ぎても、日常生活に支障のある尿もれが続いている
1年以降は回復ペースが大幅に落ちますが、あきらめる必要はありません。治療の選択肢はまだ残っています。まずは一度受診してください。

改善しない場合の治療選択肢:人工尿道括約筋埋め込み術

骨盤底筋体操や薬だけでは対応が難しい重症の尿もれが続く方に向けた、保険が適用される治療法があります。
それが人工尿道括約筋埋め込み術です(2012年より保険適用)。

仕組みと効果

尿道の周囲に「カフ」と呼ばれる輪状の器具を巻き、生理食塩水の圧力で尿道を圧迫することで尿もれを防ぎます。
排尿するときは陰嚢の中に埋め込まれた小さなポンプを数回押すと液体が移動し、カフの圧迫が緩んで尿を出すことができます。
排尿後数分で液体が戻り、再び尿道が圧迫された状態になります。

項目 詳細
保険適用 2012年より保険適用
主な効果 手術を受けた方の約半数でパッドが不要に。残りの多くの方もパッド枚数が大幅に減少
入院期間 1週間前後
器具使用開始 退院後6〜8週間ほど待ち、1泊2日の教育入院で使用方法を習得
注意事項 感染や器具の不具合による再手術が必要になるケースもある。施設も限られている
💡 「もう改善しないかも」と感じている方へ

重症の尿もれで長期間悩んでいる方は、担当医に相談するか、泌尿器科専門病院への紹介を依頼してみてください。
あきらめる前に、選択肢があることを知っておいていただきたいと思います。

よくある質問(FAQ)

Q. 前立腺がん手術後の尿もれはいつ治りますか?

A. 多くの方が術後1〜3ヶ月で日常生活を送れる程度に改善し、3〜6ヶ月でさらに落ち着き、1年以内にほぼ安定するのが標準的な経過です。ただし年齢・術前の排尿機能・神経温存の有無などによって個人差があります。
Q. 骨盤底筋体操はいつから始めればよいですか?
A. 手術前から始めることが推奨されています。術前に骨盤底筋を鍛えておくことで術後の回復が早まるという報告があります。手術後は退院直後から継続して行ってください。
Q. 尿もれが心配で水分を控えていますが大丈夫ですか?
A. 水分を極端に控えるのは逆効果です。尿が濃くなることで膀胱粘膜を刺激し、かえって頻尿や膀胱過敏を引き起こしやすくなります。1日1500〜2000mlを目安に、こまめに少量ずつ摂取することをお勧めします。
Q. 術後1年を過ぎても尿もれが続く場合、どんな治療がありますか?
A. 重症の尿もれが続く場合、2012年から保険適用となっている「人工尿道括約筋埋め込み術」という選択肢があります。手術を受けた方の約半数でパッドが不要になったと報告されています。担当医または泌尿器科専門医にご相談ください。
Q. 術後の尿もれで受診が必要なタイミングはいつですか?
A. ①術後6ヶ月を過ぎても1日のパッド使用が3枚以上で変化がない場合、②骨盤底筋体操を継続しても改善が見られない場合、③術後1年を過ぎても日常生活に支障のある尿もれが続く場合は、早めに担当医にご相談ください。

まとめ

この記事のポイント

  • 前立腺がん手術後の尿もれは多くの方に起こる。原因は尿道括約筋へのダメージと「防波堤」の消失
  • 術後3〜6ヶ月で改善し、1年以内にほぼ落ち着くのが標準的な経過
  • 「水分を控える」「外出しない」という間違ったセルフケアが回復を妨げる
  • 骨盤底筋体操を正しく毎日続けることが、最大の対策。手術前から始めると効果的
  • 1日のパッド枚数を記録し、外来で担当医と共有する習慣を持つ
  • 術後1年を過ぎても重症の尿もれが続く場合は、保険適用の人工尿道括約筋埋め込み術という選択肢がある

今日学んだことを参考に、次の外来で「今の回復状況はどのくらいですか」とぜひ担当医に確認してみてください。

所沢いそのクリニックは埼玉県所沢市の泌尿器科クリニックです。
所沢市・新座市・朝霞市・入間市・狭山市・富士見市・ふじみ野市・東村山市・清瀬市など近隣エリアから多くの方がご来院されています。前立腺がんの術後ケアや尿もれについてのご相談は、お気軽にご予約ください。
この記事を書いた人
院長 磯野誠

 
略歴
・防衛医科大学校卒業 医師免許取得
・研修医(防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院)
・陸上自衛隊武山駐屯地医務室(神奈川県横須賀市)で総合診療に従事
・専修医(防衛医科大学校病院)で泌尿器科診療に従事
・陸上自衛隊善通寺駐屯地医務室(香川県善通寺市)で総合診療に従事
・防衛医科大学校医学研究科
・デュッセルドルフ大学泌尿器科学講座(ドイツ連邦共和国)で泌尿器科がんの研究に従事
・陸上自衛隊第11旅団司令部(北海道札幌市)医務官
・恵佑会札幌病院泌尿器科、札幌医科大学病理学第一講座で泌尿器科がんの診療・研究に従事
・我孫子東邦病院泌尿器科で女性泌尿器科・前立腺肥大症・尿路結石の診療に従事
・所沢いそのクリニック開院

資格・所属学会
・医学博士
・日本泌尿器科学会 専門医・指導医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器ロボット支援手術プロクター(手術指導医;前立腺・膀胱、仙骨膣固定術)
・日本内視鏡外科学会 技術認定医
・日本透析医学会
・日本生殖医学会
・日本メンズヘルス医学会 テストステロン治療認定医
・ボトックス講習・実技セミナー(過活動膀胱・神経因性膀胱)修了
・がん診療に携わる医師に対する緩和ケア講習修了
・臨床研修指導医

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