尿は出ているのに膀胱はパンパン?男性に多い「隠れ残尿」の正体と対処法

院長ブログ

毎日ちゃんとトイレに行けている。でも、その尿、本当に「出し切れて」いますか。実は70代になると男性のおよそ8割に前立腺の肥大がみられるという報告があり、これが原因で膀胱の中に尿が少しずつ残り続けてしまうことがあります。

本記事では、尿は出ているのに膀胱の中に尿が残ってしまう「残尿」、その中でも見逃されやすい状態を広い意味で「隠れ尿閉」と呼び、前立腺肥大との関係、自分で気づける9つのサイン、放置した場合のリスク、そして病院での検査の実際まで、泌尿器科専門医の視点で解説します。

尿閉は「出ない」だけではありません

尿閉と聞くと、多くの方は「尿が全く出なくなる状態」を思い浮かべると思います。
実際、急に尿が出せなくなる急性尿閉は、尿閉の代表的な症状の一つで、救急外来を受診するような強い下腹部の痛みを伴うケースもあります。

しかし、尿閉にはもう一つの顔があります。
それが、時間をかけてゆっくり進行する「出しきれない状態」、医学的には慢性的な残尿と呼ばれるものです。
急性尿閉のように突然苦しくなるわけではなく、少しずつ残尿が増えていくため、本人はその変化に慣れてしまい、異常だと気づきにくいという特徴があります。

「毎日ちゃんとトイレに行けている」「尿はしっかり出ている」と感じている方でも、膀胱の中に尿が残り続けているケースは少なくありません。出せているかどうかと、出しきれているかどうかは、似ているようで全く別のことなんです。

自覚症状がゆっくり進む分、本人よりも先にご家族が「トイレの回数が増えた」と気づくこともよくあります。ご本人が気づいていない変化を、身近な人が先に気づいている。これは、実はとても多いパターンです。

前立腺肥大が引き起こす残尿と頻尿の悪循環

隠れ残尿の背景には、多くの場合、前立腺肥大症が関係しています。前立腺とは、膀胱の出口を取り囲むように存在する男性特有の臓器です。

前立腺肥大の頻度(組織学的な変化)
50歳代:およそ3割
60歳代:およそ6割
70歳代:およそ8割
※実際に治療が必要になる方は、このうちおよそ4分の1程度と言われています

前立腺が大きくなること自体は、特別な病気というより加齢に伴う一般的な変化と言ってもいいくらい、非常に多くの男性に起こります。そしてこの前立腺が大きくなると、その中を通る尿道が圧迫され、尿の通り道が狭くなっていきます。

すると、一度の排尿で膀胱の中の尿を全部出しきることができなくなります。出しきれなかった尿は、そのまま膀胱の中に残り、次に少し尿が作られただけで膀胱はすぐ満杯に近づき、また尿意を感じてしまうのです。これが繰り返されることで、「最近トイレの回数が増えた」「膀胱が小さくなった気がする」という感覚につながっていきます。

イメージとしては、コップに少し水が残ったまま、その上に新しい水を注いでいくようなものです。
コップの容量自体は変わっていないのに、少し注ぐだけであふれそうになってしまう。本当は膀胱の容量が小さくなったわけではなく、出しきれていない尿が、その都度上乗せされているだけなんです。

ホースの先が少しつぶれた状態を想像してみてください。
水の出し口が狭くなれば、同じ量の水を出すのにも時間がかかり、勢いも弱くなります。前立腺肥大による尿道の圧迫も、これと同じような現象が体の中で起きているということです。圧迫の程度は人によって差があり、同じ年齢でも症状の出方が大きく違うのはこのためです。

この仕組みを知らないと「歳のせいで膀胱が弱った」と誤解してしまいがちですが、実際には前立腺という別の場所が原因になっていることが多いんです。だからこそ、頻尿の相談を受けたときには、膀胱そのものだけでなく、前立腺の状態も必ず確認するようにしています。

自分でわかる「隠れ残尿」9つのサイン

隠れ残尿は、日常生活の中にいくつかのサインとして現れます。今、当てはまるものがないか、数えながら確認してみてください。

  1. 尿の勢いが以前より弱くなっている
  2. 排尿を始めるまでに時間がかかる
  3. 排尿の途中で尿が途切れてしまう
  4. 出し終わった後もまだ残っている感じがする
  5. トイレに行ったばかりなのに、またすぐ行きたくなる
  6. 1回に出る尿の量が少なくなっている
  7. 出し始めてからも排尿になかなか時間がかかる(だらだらと長引く)
  8. 下腹部が張っている感じが続く
  9. 夜中に何度もトイレに起きてしまう

「なんだか歳のせいかな」と見過ごしてしまう方も多いのですが、こうした項目のうち複数当てはまる場合は、一度体の状態を確認しておいたほうがいいかもしれません。特に、3つ以上心当たりがある方は、単なる老化ではなく、前立腺の変化が関わっている可能性を考えたほうがいいと思います。

放置するとどうなるのか

「尿は少しでも出ているならそのままでも大丈夫では」そう考える方も多いと思います。
正直にお話しすると、膀胱の中に多くの尿が残った状態が長く続くと、膀胱の壁が伸びきったまま、尿を押し出す力そのものが弱くなってしまうことがあります。
一度伸びきってしまった膀胱は、元の状態に戻るまでに時間がかかることもあります。

残尿を放置すると起こりうること
・膀胱の収縮力が低下する(伸びきったゴム袋のように戻りにくくなる)
・尿路感染症を起こしやすくなる(発熱を伴うこともある)
・膀胱結石ができることがある
・腎臓の機能に影響が及ぶことがある
・急に尿が全く出せなくなる急性尿閉を起こし、救急対応が必要になることもある

体は一つのシステムでつながっているため、膀胱だけの問題では終わらないことがあります。
とはいえ、必要以上に怖がる必要はありません。
こうした変化は、多くの場合ゆっくりと時間をかけて起こるものです。
今日この段階で気づけたということ自体が、実はとても大きな一歩です。早い段階で原因を確認しておくことが、将来の負担を減らす一番の方法になります。

病院での検査は思ったより簡単です


「病院に行ったら、痛い検査をされるのでは」そういう不安を持つ方も多いのではないでしょうか。安心してください。

主な検査
①残尿測定:排尿した直後にお腹の上から超音波を当てて、膀胱の中に残っている尿の量を測るだけ。痛みはなく1分程度で終わります
②尿検査:感染や血尿の有無を確認します
③尿流量検査:専用の機器に向けて排尿し、尿の勢いや排尿にかかった時間を数値として確認します
必要に応じて、前立腺の大きさを確認する超音波検査や血液検査を組み合わせることもあります

生活の中で気になっている症状を事前にメモしておいていただけると、診察がよりスムーズに進みます。
診療の現場では、「自分ではしっかり出しきっているつもりだったのに、実際に測ると思った以上に残っていた」という方によくお会いします。
感覚だけでは分からない部分を、こうした検査で客観的に確認できるというのは、大きな安心材料になります。

膀胱トレーニングの前に確認すべきこと

以前の記事で、「念のためトイレ」の習慣が頻尿を悪化させることと、その対策としての膀胱訓練についてお話ししましたが、今日はその前に必ず確認してほしいことがあります。

頻尿という症状に対して、「トイレを我慢して膀胱を鍛える」という方法を耳にしたことがある方もいると思います。しかし、これは誰にでも当てはまる対処法ではありません。尿を溜められないタイプの頻尿と、尿を出しきれていないタイプの頻尿では、原因も対処法も全く違うからです。

出しきれていないタイプの場合、無理に我慢することで、むしろ膀胱への負担が増えてしまう可能性があります。「我慢すればそのうち膀胱が強くなるはず」と思い込んでしまうと、逆に状態を悪化させてしまうこともあります。頻尿だからといって自己判断で膀胱訓練を始める前に、まずは前立腺や残尿の状態を評価してもらうことが大切です。

自分がどちらのタイプに当たるのかを知ることが、正しい対策への第一歩になります。遠回りをせず、最短で自分に合った対策にたどり着くためにも、まずは今の状態を正確に把握することから始めてみてください。

まとめ

尿が出ているからといって、問題がないとは言い切れません。頻尿の原因は、尿を溜められないことだけでなく、出しきれていないことにある場合があります。特に、排尿の勢いや残尿感に変化を感じている中高年男性の方は、一度泌尿器科で確認しておく価値があります。

よくある質問

Q. 残尿測定の検査は痛いですか?

A. 痛みはありません。排尿した直後にお腹の上から超音波を当てて、膀胱に残っている尿の量を測るだけの検査で、1分程度で終わります。

Q. 前立腺肥大がなくても残尿は起こりますか?

A. 起こり得ます。糖尿病による神経障害や骨盤内の手術の影響などでも残尿が生じることがあります。ただし、中高年男性における残尿の原因としては前立腺肥大症が最も多いとされています。

Q. 「隠れ残尿」と「過活動膀胱」はどう違いますか?

A. 過活動膀胱は膀胱が過敏になり急に強い尿意が起こる状態で、多くは残尿を伴いません。一方、隠れ残尿は膀胱の中に尿が残ったまま次の尿意が来てしまう状態です。実際には両方が合併しているケースも少なくないため、検査で見分けることが大切です。

Q. 以前紹介された膀胱訓練は、隠れ残尿がある人もやっていいですか?

A. 出しきれていないタイプの頻尿に対して無理に我慢を続けると、かえって膀胱への負担が増えることがあります。膀胱訓練を始める前に、まずは残尿の有無を確認することをおすすめします。

Q. 何歳くらいから残尿のチェックを受けた方がいいですか?

A. 前立腺の肥大は50歳代から増え始めるため、50歳を過ぎて排尿の変化を感じたら一度確認しておくと安心です。もちろん年齢に関わらず、気になる症状があれば早めの受診をおすすめします。

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こんな時は、一度泌尿器科にご相談ください

今回お話しした「隠れ残尿」のサインに複数当てはまる方や、発熱を伴う膀胱炎を繰り返す、血尿がある、急に尿が出せなくなったといった症状がある場合は、自己判断で様子を見ずに一度泌尿器科にご相談ください。放置せず早めに原因を確認することが、将来の負担を減らす一番の近道です。

この記事を書いた人
院長 磯野誠

 
略歴
・防衛医科大学校卒業 医師免許取得
・研修医(防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院)
・陸上自衛隊武山駐屯地医務室(神奈川県横須賀市)で総合診療に従事
・専修医(防衛医科大学校病院)で泌尿器科診療に従事
・陸上自衛隊善通寺駐屯地医務室(香川県善通寺市)で総合診療に従事
・防衛医科大学校医学研究科
・デュッセルドルフ大学泌尿器科学講座(ドイツ連邦共和国)で泌尿器科がんの研究に従事
・陸上自衛隊第11旅団司令部(北海道札幌市)医務官
・恵佑会札幌病院泌尿器科、札幌医科大学病理学第一講座で泌尿器科がんの診療・研究に従事
・我孫子東邦病院泌尿器科で女性泌尿器科・前立腺肥大症・尿路結石の診療に従事
・所沢いそのクリニック開院

資格・所属学会
・医学博士
・日本泌尿器科学会 専門医・指導医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器ロボット支援手術プロクター(手術指導医;前立腺・膀胱、仙骨膣固定術)
・日本内視鏡外科学会 技術認定医
・日本透析医学会
・日本生殖医学会
・日本メンズヘルス医学会 テストステロン治療認定医
・膀胱壁内注入療法 講習・実技セミナー(過活動膀胱・神経因性膀胱)修了
・がん診療に携わる医師に対する緩和ケア講習修了
・臨床研修指導医

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