前立腺がん治療で後悔する人の3つの共通点

前立腺がんと診断され、「手術か、放射線か、監視療法か」で悩んでいませんか。

前立腺がんは日本人男性が最も多くかかるがんで、1年間に新しく診断される方は約10万人と報告されています。それだけ多くの方が、今この瞬間もあなたと同じ選択に直面しています。

「早く取り除きたい」「でも合併症が怖い」。そんな不安の中で決断を迫られ、後になって深く後悔される方は実際にいらっしゃいます。そして後悔する方には、はっきりとした共通点があります。

一度選んだら簡単には引き返せない治療だからこそ、選ぶ「前」に知っておくべきことがあります。この記事では、所沢で泌尿器科診療を行う医師の立場から、後悔の分かれ道と、次の受診で何をすべきかを具体的に解説します。

  1. 共通点1:自分のリスク分類を知らないまま治療の話を進めている
    1. リスク分類は3つの情報で決まる
    2. リスクによって「選べる治療」がまるで違う
    3. 「監視療法は、がんの放置ではありません」
  2. 共通点2:合併症について、事前に具体的に聞いていない
    1. 後悔していたのは、手術を選んだ人が最も多かった
    2. 想定外になりやすい2つの合併症
      1. ① 勃起機能の障害
      2. ② 尿漏れ(腹圧性尿失禁)
      3. 放射線治療にも数年後のリスクがある
    3. 手術と放射線は「一方通行」の関係にある
  3. 共通点3:「早く取り除きたい」という焦りで即決してしまう
      1. ケース:健診でPSA高値を指摘された60代男性
  4. 後悔しないために、次の受診からできる3つの行動
    1. 行動1:リスク分類を主治医に必ず確認する
    2. 行動2:合併症の具体的な話を、遠慮せずに聞く
    3. 行動3:セカンドオピニオンを使う
    4. 手術を選ぶ方へ:術前からの骨盤底筋体操
  5. よくある質問(FAQ)
    1. Q. 前立腺がんの治療で、後悔する人はどのくらいいますか?
    2. Q. 監視療法は「がんを放置する」ことになりませんか?
    3. Q. 放射線治療をした後に、手術に切り替えることはできますか?
    4. Q. 手術後の尿漏れは、どのくらいで治りますか?
    5. Q. セカンドオピニオンを受けたいと言うと、主治医に失礼になりませんか?
    6. Q. 健康診断でPSAが高いと言われました。まず何をすればよいですか?

共通点1:自分のリスク分類を知らないまま治療の話を進めている

「リスク分類なんて聞いたことがない」という方は、実は少なくありません。しかし、これを知らずに治療を選ぶのは、地図を持たずに山に入るようなものです。

リスク分類は3つの情報で決まる

前立腺がんは、一口に言っても低リスク・中リスク・高リスクの3段階に分けられます。判定に使うのは、次の3つの情報の組み合わせです。

リスク分類を決める3つの要素
項目 意味すること
PSA値 血液検査で前立腺の異常を早期に察知する数値。高いほど注意が必要。
グリソンスコア がん組織の「顔つき」=悪性度を数字にしたもの。数字が高いほど悪性度が高い。
がんの広がり(病期) がんが前立腺の中でどこまで広がっているか、外に出ていないか。

リスクによって「選べる治療」がまるで違う

ここが最も重要なポイントです。リスク分類によって、そもそも選択肢のテーブルに乗る治療が変わります。

リスク分類別・主な治療選択肢の目安
リスク 手術 放射線治療 監視療法
低リスク
中リスク △(条件によって選択されることがある)
高リスク ○(ホルモン治療との併用が標準的) ×

低リスクの方は、がんの勢いが穏やかで、すぐに命に関わる可能性が低い状態です。だからこそ「急いで治療せず、しっかり見守る」という選択が成り立ちます。一方、高リスクの方に監視療法という選択肢はありません。がんの勢いが強く、確実な治療が必要な状態だからです。

なお、低リスクから中リスクの方には、放射線治療の一種である小線源治療(組織内照射)という方法もあります。

次の受診でひとこと確認してください。
「私は低リスクですか、中リスクですか、高リスクですか」
この質問に自分で答えられないまま治療の話が進んでいるなら、それが後悔の入り口です。

「監視療法は、がんの放置ではありません」

監視療法と聞いて「がんを放っておくということか」と不安に思われる方は多いのですが、放置とはまったく違います。

  • 数か月ごとのPSA検査
  • 1〜2年ごとの画像検査
  • 必要に応じた組織検査(生検)

これらでしっかり管理しながら見守る、れっきとした治療方針です。進行の兆候が出た時点で、手術や放射線治療に切り替えます。

共通点2:合併症について、事前に具体的に聞いていない

後悔していたのは、手術を選んだ人が最も多かった

転移のない前立腺がんの患者さんを対象に、診断から5年後の「治療選択への後悔」を調べた研究があります。その結果は次のとおりでした。

診断5年後に治療選択を後悔していた割合(海外の研究報告より)
治療法 後悔していた割合
手術(前立腺全摘除術) 約16%(およそ6人に1人)
放射線治療 約11%
監視療法 3つの中で最も低い

積極的に「取りに行った」はずの手術で、後悔する人が最も多かったのです。

そして、この研究が示した後悔の最大の要因は「期待と現実のギャップ」でした。説明を受けていなかったから、ではありません。説明は受けていた。けれども、実際に自分の身に起きたことへの心の準備ができていなかった。それが後悔につながっていました。

想定外になりやすい2つの合併症

① 勃起機能の障害

手術でも放射線治療でも起こり得ますが、手術の場合は前立腺の周囲を走る神経への影響が直接的になりやすいとされています。

② 尿漏れ(腹圧性尿失禁)

前立腺をすべて取り除くと、おしっこを止める筋肉に影響が出ることがあります。立ち上がったとき、くしゃみをしたとき、ちょっとした動作で漏れてしまう時期が続くことも珍しくありません。多くの方は術後1〜2年かけて少しずつ改善しますが、その間の生活への影響は決して小さくありません。

放射線治療にも数年後のリスクがある

放射線治療では、治療が終わって数年たってから膀胱や直腸の炎症で出血が起きることがあります。「もう何年も前のことだから安心」ではなく、治療後も数年単位で経過を見ていく必要があります。

手術と放射線は「一方通行」の関係にある

治療を選ぶ前に、必ず知っておいてほしいこと

  • 手術をした後に、放射線治療を追加することはできます
  • しかし、放射線治療をした後に手術をすることは、組織へのダメージが大きく、一般的にとても難しいとされています。

一方通行の道に車で入っていく場面を想像してください。手術という道から入れば、その先に放射線という枝道が残っています。しかし放射線という道から先に入ると、手術へ戻る枝道はほとんど塞がっています。

どちらの道から入るかを決める前に、その先にどんな枝道が残るのかを知っておく。これが、後悔しないための非常に大切な視点です。

なお、高リスクの方に放射線治療を行う場合は、ホルモン治療と組み合わせるのが標準的とされています。手術と比較検討する際は、この点も担当の先生に確認してください。

合併症が起きること自体が後悔の原因ではありません。「起きるかもしれない」と覚悟できていなかったことが、心を深く傷つけます。人は、覚悟していたことには案外耐えられるものです。だからこそ、起こり得ることを事前にすべて聞いておくことが、後悔を最小限にする一番の備えになります。

共通点3:「早く取り除きたい」という焦りで即決してしまう

「がんです」と告げられた瞬間、頭が真っ白になる。一日でも早く体から取り除きたい。そう思うのは、とても自然なことです。しかし、その焦りが後悔につながることがあります。

ケース:健診でPSA高値を指摘された60代男性

健康診断でPSAの数値が高いと指摘され、詳しい検査の結果は前立腺がん。それも低リスクでした。

しかし「がん」という言葉に頭が真っ白になり、この方は手術を強く希望されました。ご家族も「早く取ってしまった方が安心だ」と背中を押したそうです。

ここで思い出してください。低リスクには、急いで手術に踏み切る以外の道もちゃんと残されていました。

この方は一度持ち帰ってご家族とじっくり話し合い、別の病院でセカンドオピニオンも受けました。そして最終的に監視療法を選ばれました。今も定期的な検査を続けながら、以前と変わらない毎日を過ごしていらっしゃいます。

「あの時、焦って手術していたら」と思うことがある——そう、静かにおっしゃっていました。

※患者さんのプライバシーに配慮し、内容を一部変更しています。経過には個人差があります。

早く取り除きたいという気持ちを、まず一度そっと受け止める。その上で、本当に今すぐ取るべきなのかを冷静に専門家と話し合う。この「一呼吸」が、後悔するかしないかを分けることがあります。

後悔しないために、次の受診からできる3つの行動

行動1:リスク分類を主治医に必ず確認する

「私は低リスクですか、中リスクですか、高リスクですか」。この一言からすべてが始まります。リスクが分かれば、自分に残されている選択肢の全体像が見えます。

行動2:合併症の具体的な話を、遠慮せずに聞く

次のように、できるだけ具体的に聞いてください。

  • 尿漏れは、どれくらいの割合で、どのくらいの期間起こりますか
  • 勃起機能への影響はどの程度ですか。神経を温存できる可能性はありますか
  • 放射線を選んだ場合、数年後の出血のリスクはどの程度ですか
  • この治療を選んだ場合、次に残る選択肢は何ですか

聞きづらいお気持ちはよく分かります。しかし、これは患者さんの当然の権利です。聞かなかったことが、後の後悔の入り口になります。

行動3:セカンドオピニオンを使う

前立腺がんの治療は、一度決めたら簡単には引き返せません。だからこそ、複数の専門家の意見を聞いた上で、ご自身が納得して選ぶことが大切です。セカンドオピニオンは主治医への不信ではなく、標準的な医療のプロセスの一部です。

手術を選ぶ方へ:術前からの骨盤底筋体操

おしっこを止める筋肉を意識して締めたり緩めたりする運動です。手術前から始めておくと、術後の尿漏れの回復を早める効果が期待できるとされています。ただし、体の状態によって向き不向きがありますので、必ず担当の先生の指導のもとで行ってください。

よくある質問(FAQ)

Q. 前立腺がんの治療で、後悔する人はどのくらいいますか?

転移のない前立腺がんの患者さんを対象にした研究では、診断から5年後に治療選択を後悔していた割合は、手術で約16%(およそ6人に1人)、放射線治療で約11%と報告されています。監視療法は3つの中で最も低い割合でした。

Q. 監視療法は「がんを放置する」ことになりませんか?

放置ではありません。数か月ごとのPSA検査、1〜2年ごとの画像検査、必要に応じた生検で経過をしっかり管理する治療方針です。進行の兆候が出れば、その時点で手術や放射線治療に切り替えます。

Q. 放射線治療をした後に、手術に切り替えることはできますか?

一般的にとても難しいとされています。放射線による組織へのダメージが大きいためです。逆に、手術の後に放射線治療を追加することは可能です。この「一方通行」の関係は、最初の治療を選ぶ前に理解しておくべき重要な点です。

Q. 手術後の尿漏れは、どのくらいで治りますか?

個人差はありますが、多くの方は術後1〜2年かけて少しずつ改善していきます。手術前から骨盤底筋体操を始めておくことで、回復が早まることが期待できるとされています。

Q. セカンドオピニオンを受けたいと言うと、主治医に失礼になりませんか?

失礼にはあたりません。セカンドオピニオンは患者さんの権利として広く認められた仕組みで、多くの医師が当然のこととして受け止めています。紹介状(診療情報提供書)や検査データの提供を主治医に依頼してください。

Q. 健康診断でPSAが高いと言われました。まず何をすればよいですか?

PSAが高い=前立腺がん、ではありません。前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇します。まずは泌尿器科を受診し、再検査や直腸診、必要に応じてMRIなどで評価してもらうことが第一歩です。自己判断で様子を見るのは避けてください。

この記事を書いた人
院長 磯野誠

 
略歴
・防衛医科大学校卒業 医師免許取得
・研修医(防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院)
・陸上自衛隊武山駐屯地医務室(神奈川県横須賀市)で総合診療に従事
・専修医(防衛医科大学校病院)で泌尿器科診療に従事
・陸上自衛隊善通寺駐屯地医務室(香川県善通寺市)で総合診療に従事
・防衛医科大学校医学研究科
・デュッセルドルフ大学泌尿器科学講座(ドイツ連邦共和国)で泌尿器科がんの研究に従事
・陸上自衛隊第11旅団司令部(北海道札幌市)医務官
・恵佑会札幌病院泌尿器科、札幌医科大学病理学第一講座で泌尿器科がんの診療・研究に従事
・我孫子東邦病院泌尿器科で女性泌尿器科・前立腺肥大症・尿路結石の診療に従事
・所沢いそのクリニック開院

資格・所属学会
・医学博士
・日本泌尿器科学会 専門医・指導医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器ロボット支援手術プロクター(手術指導医;前立腺・膀胱、仙骨膣固定術)
・日本内視鏡外科学会 技術認定医
・日本透析医学会
・日本生殖医学会
・日本メンズヘルス医学会 テストステロン治療認定医
・ボトックス講習・実技セミナー(過活動膀胱・神経因性膀胱)修了
・がん診療に携わる医師に対する緩和ケア講習修了
・臨床研修指導医

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