
こんにちは!所沢いそのクリニック院長の磯野誠です。
「自己破産するんじゃないか」
──前立腺がんと診断された直後、そう思う方は少なくありません。
しかし、前立腺がんの主な治療法はほぼすべて公的医療保険の対象であり、高額療養費制度を使えば多くの方の月額窓口負担は8万円前後に収まります。この記事では、治療法ごとの具体的な費用と制度の活用法を泌尿器科医が詳しく解説します。
「いくらかかるんだろう」── よくある不安

前立腺がんは日本人男性で最も患者数の多いがんです。2022年の推計では、年間約10万人以上が新たに診断されています。これだけ多くの方が直面する病気でありながら、費用への不安から最初に選択肢を狭めてしまっているケースをクリニックの外来でもよく目にします。
- 「ロボット手術って、何百万もするんじゃないか」
- 「陽子線治療は自由診療で全額自己負担では?」
- 「抗がん剤が続いたら家計が持たない」
- 「高い治療は家族に勧めにくくて……」
こういった声を聞くたびに思います。「正しい情報さえあれば、この不安の大半は消えるのに」と。では、具体的な数字を見ていきましょう。
治療法ごとの窓口負担の目安

以下の金額は、公的医療保険適用後・3割負担の目安です。高額療養費制度適用前の数字になりますので、実際の窓口負担はさらに低くなる可能性があります。
| 治療法 | 3割負担の目安 | 保険適用 |
|---|---|---|
| ホルモン療法(注射薬) | 1回 約1.5万〜2.5万円 | 保険適用 |
| ホルモン療法(新しい飲み薬) | 毎月 上限近くになるケースも | 保険適用 |
| 放射線治療(IMRT) | 約35万〜45万円 | 保険適用 |
| 小線源治療 | 約30万〜40万円 | 保険適用 |
| 陽子線治療 | 約40万〜50万円 | 保険適用 |
| ロボット支援手術(ダヴィンチ) | 約45万〜60万円 | 保険適用 |
| 腹腔鏡手術 | 約43万〜58万円 | 保険適用 |
| 開腹手術 | 約30万〜45万円 | 保険適用 |
| HIFU(高密度焦点式超音波) | 約80万〜150万円 | 保険適用外 |
※上記はあくまで目安です。施設・病状・入院日数によって異なります。必ず主治医に確認してください。
① ホルモン療法(内分泌療法)
男性ホルモンの働きを薬で抑える治療法です。進行がん・転移がんに使われるほか、手術や放射線と組み合わせることも多くあります。注射薬は3割負担で1回あたり約1万5千〜2万5千円が目安です。
近年登場した「新しいタイプの飲み薬(アビラテロン・エンザルタミドなど)」は薬価が高い傾向があります。高額療養費制度の対象にはなりますが、毎月、自己負担の上限額ギリギリの支払いが数か月続くケースも出てきます。どのタイプが合うかは病状や生活環境によって異なるため、主治医・薬剤師に確認してください。
② 放射線治療
現在の主流はIMRT(強度変調放射線治療)です。がんの形に合わせて放射線の強さを細かく調整することで、周囲の正常組織へのダメージを最小限に抑えられます。3割負担で約35万〜45万円が目安です。
陽子線治療は保険適用外と誤解されている方が多いですが、転移のない前立腺がんへの陽子線治療は一定の条件を満たせば保険が使えます。3割負担で約40万〜50万円が目安です。
放射線治療は複数回にわたります。治療が月をまたぐ場合、それぞれの月で高額療養費の計算がされます。担当医や医療スタッフに事前に確認しておきましょう。
③ 手術療法(前立腺全摘除術)
現在の主流はロボット支援手術(ダヴィンチ、ヒノトリ)です。「ロボット手術は高い」というイメージをお持ちの方が多いのですが、これも保険適用です。手術費に加え10〜14日程度の入院費を含めた3割負担の総額は約45万〜60万円が目安です。
高額療養費制度という盾

「数十万円かかるのか」と思った方──次の情報を読めば、見え方がまったく変わります。高額療養費制度とは、1か月に支払った医療費の自己負担額が、年齢と収入に応じた上限を超えた分が後から戻ってくる制度です。
収入別・自己負担上限額の目安(70歳未満)
| 年収(目安) | 1か月の自己負担上限額 |
|---|---|
| 約1,160万円以上 | 約25.2万円 |
| 約770万〜1,160万円 | 約16.7万円 |
| 約370万〜770万円(一般的なサラリーマン) | 約8.7万円 |
| 〜約370万円 | 約5.7万円 |
| 住民税非課税世帯(70歳未満) | 約3.5万円 |
70歳以上の方はさらに上限が低く、住民税非課税世帯では2万4,600円が上限です。
年収500万円の方が手術で医療費100万円かかったとします。3割負担なら30万円ですが、高額療養費制度を使うと窓口で実際に払うのは約8.7万円程度になります。
高額療養費制度の使い方(3つの方法)
限度額適用認定証を事前に取得する
加入している健康保険組合に申請。認定証を窓口で提示するだけで、最初から上限額までの支払いで済みます。治療が決まった段階でなるべく早く申請するのがおすすめです。
マイナ保険証を使う
対応医療機関であれば認定証なしで同じ扱いを受けられます。治療が急遽決まって申請が間に合わないときに特に便利です。
事後申請する
一度3割負担の全額を立て替え、後から健康保険組合に申請すると超過分が返還されます。振り込みまでに3か月以上かかることが多い点だけ覚えておいてください。
また、同じ世帯で複数の医療費がかかっている場合は「世帯合算」という仕組みが使えるケースもあります。ご家族で医療費がかさんでいる場合は、健康保険組合に確認してみてください。
制度の対象外になる費用

高額療養費制度は強力な制度ですが、対象外の費用もあります。事前に把握しておきましょう。
| 費用の種類 | 目安金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 差額ベッド代(個室) | 1日 約8,400円(平均) | 2週間入院で約11万円超。大部屋を希望すれば不要。 |
| 入院中の食費 | 1食 490〜600円 | 2週間・3食で約3万円前後 |
| 保険適用外の治療 (例:HIFU) |
約80万〜150万円 | 全額自己負担。高額療養費制度も使えない。 |
陽子線治療は条件付きで保険適用になりますが、HIFUなど保険適用外の治療は全額自己負担です。治療法を選ぶ前に、必ず主治医に「この治療は保険適用ですか」と確認してください。
民間保険も確認を

民間の医療保険・がん保険に加入している方は、給付金を受け取れる可能性があります。意外に多いのが、加入していたのに給付金の請求を忘れていたというケースです。
- 医療保険:入院給付金・手術給付金
- がん保険:診断一時金・入院給付金・通院給付金
- 先進医療特約:陽子線治療などの費用をカバーできるケースあり
まず加入している保険の証券を確認し、保険会社に「前立腺がんの治療を受けることになったが、給付金は出るか」と問い合わせるだけで教えてもらえます。
お金の不安は主治医に話していい

「先生に費用のことを聞くのは失礼じゃないか」と思っている方が多いのですが、そんなことはありません。治療費の概算は、主治医が最もよく把握しています。「この治療を選んだ場合、大体いくらになりますか」「高額療養費制度を使うとどうなりますか」と一言聞くだけで具体的な数字を教えてもらえます。
また、大きな病院には医療ソーシャルワーカーという、医療費や生活上の問題を専門的に相談できるスタッフがいます。先生に直接話しにくい場合は、「がん相談支援センター」や「地域連携室」を病院の窓口で尋ねてみてください。
よくある質問(FAQ)

Q. 前立腺がんの手術(ダヴィンチ)の費用はいくらですか?
A. ロボット支援手術(ダヴィンチ)は公的医療保険が適用されます。手術費と10〜14日程度の入院費を含めた3割負担の総額は約45万〜60万円が目安です。高額療養費制度を利用すると、年収370万〜770万円の方では月の窓口負担が約8.7万円程度に抑えられます。
Q. 陽子線治療は保険が使えますか?費用はいくらですか?
A. 転移のない前立腺がんへの陽子線治療は、一定の条件を満たせば公的医療保険が適用されます。3割負担で約40万〜50万円が目安です。高額療養費制度も利用できます。ただし、すべての施設・条件で保険適用になるわけではないため、主治医への確認が必要です。
Q. 高額療養費制度を使うと、実際の負担はどれくらいになりますか?
A. 70歳未満で年収370万〜770万円の方は、1か月の自己負担上限額が約8.7万円です。仮に手術で医療費が100万円かかっても、実際の窓口負担は約8.7万円程度に収まります。70歳以上の方はさらに上限が低く設定されています。
Q. 高額療養費制度の対象にならない費用はありますか?
A. 差額ベッド代(個室利用時に1日平均約8,400円)、入院中の食費(1食490〜600円程度)、保険適用外の治療費(例:HIFU治療は約80万〜150万円で全額自己負担)は対象外です。
Q. 費用を理由に治療法を選ばない方がいいですか?
A. 主な治療法はいずれも保険適用であり、高額療養費制度を使えば窓口負担は大きく変わりません。費用だけを理由に最初から選択肢を絞るのは避けていただきたいというのが専門医としての本音です。まずは費用の概算を主治医に確認した上で、病状と生活環境に合った治療法を選んでください。

