
トイレを済ませて、ズボンを上げた。その直後に、じわっと数滴。あるいは、前立腺の手術のあと、パッドが手放せない。
どちらも、男性の尿もれです。そして、原因によって、やるべきことはまったく違います。なかには、パッドで様子を見てはいけないタイプもあります。今日は、その見分け方からお話しします。
尿もれというと「女性の悩み」というイメージを持っている方が多いかもしれません。ですが、外来で「実は……」と小さな声で打ち明けてくださる男性は、決して少なくありません。言い出しにくいだけで、悩んでいる方はとても多いのです。
今日お伝えするのは、次の内容です。
- 男性の尿もれを、3つのタイプに分けて見分けること
- 前立腺の手術のあと、なぜ漏れるのか、そしていつ治るのか
- 今日からできる骨盤底筋体操と、パッドの正しい使い方
このうち1つのタイプは、放っておくと腎臓を傷めてしまうことがあります。そこだけは、絶対に見逃さないでください。
男性の尿もれは、3つに分けて考える

まず、ご自身がどれに当てはまるか、考えながら読んでみてください。
排尿後のポタポタ(排尿後尿滴下)
トイレを終えて、下着を上げたあとに数滴出てしまう。これは「排尿後尿滴下」といって、尿道に残っていた尿が、あとから出てくるものです。病気ではありません。加齢とともに、多くの男性が経験します。
対処法はとてもかんたんです。排尿のあと、陰嚢の裏側のあたりに指を当てて、尿道に残った尿を前へ押し出す「ミルキング」と呼ばれる方法です。これだけで、気にならなくなる方がほとんどです。病院に行くまでもなく、今日から試せます。
おなかに力が入ったときに漏れる(腹圧性尿失禁)
くしゃみ、咳、重いものを持ち上げたとき、立ち上がった瞬間。女性に多いタイプですが、男性でこれが起こるのは、ほとんどが前立腺の手術のあとです。今日の中心は、このタイプです。
「出にくい」のに「漏れる」(溢流性尿失禁)
そして、いちばん注意していただきたいのが、このタイプです。尿の勢いが弱い、出るまでに時間がかかる、出したあともすっきりしない、それなのに漏れる。これは、膀胱に尿がたまりきって、あふれ出ている状態かもしれません。前立腺肥大症の方に起こります。
漏れているので、一見すると「出ている」ように見えます。ですが、実際には出しきれていません。この状態が続くと、尿が腎臓のほうへ押し戻され、腎臓のはたらきが落ちてしまうことがあります。パッドで様子を見てはいけない、唯一のタイプです。
今すぐ受診してください
尿の勢いが弱い、出るまでに時間がかかる、出したあともすっきりしないのに漏れる——この症状に心当たりのある方は、今日の残りを読むよりも先に、泌尿器科を受診してください。
なぜ、前立腺の手術で尿もれが起こるのか

男性の体には、尿を止める「鍵」が、2つあります。ひとつは膀胱の出口にある内側の鍵。もうひとつは、その少し先にある外側の鍵。前立腺は、この2つの鍵のあいだにあります。
前立腺がんの手術では、前立腺を取り出すときに、内側の鍵ごと取り除きます。つまり、2つあった鍵が、1つになるということです。内側の鍵は、あとから元に戻るものではありません。
では、なぜ多くの方が治っていくのか。それは、残された外側の鍵と、その周りにある骨盤底筋が、だんだんと1つで締められるようになっていくからです。ですから、術後の尿もれは、手術の失敗でも、体力の衰えでもありません。体のつくりの上で、起こるべくして起こる変化です。ご自身を責める必要は、まったくありません。そして、外側の鍵は、鍛えることができます。
いつ治るのか

手術後に尿もれがあると「ずっとこのままなのか」と落ち込んでしまう方は、本当に多くいらっしゃいます。多くの方は、術後3か月ごろから明らかに減りはじめ、半年から1年ほどかけて落ち着いていきます。
ただし、回復のペースには大きな個人差があります。年齢、もともとの排尿の状態、手術の方法によっても変わります。「同じ手術を受けた知人は、もう治ったのに」と比べて落ち込む必要は、まったくありません。
目安は、パッドのサイズダウン
目安にしていただきたいのは、他人ではなく、パッドです。術直後は吸収量の多いパッドが必要でも、1か月後には中くらいに、数か月後には少量用へ。そうやって下げていけること自体が、回復のものさしになります。
1年経っても改善しない場合
1年を過ぎても、日常生活に困るほどの漏れが続く場合。そのまま我慢し続ける必要はありません。人工尿道括約筋という治療があります。尿道のまわりに埋め込んだカフで尿道を締めておき、排尿したいときに、ご自身でポンプを押してゆるめる装置です。日本でも、保険診療で受けることができます。「もう治らないから」と諦めてしまう前に、一度、泌尿器科で相談してください。
回復を後押しする、骨盤底筋体操

骨盤底筋というと、女性向けのイメージが強いかもしれません。ですが、男性にも骨盤底筋はあります。そして、前立腺の手術を受けた方こそ、鍛える意味があります。
やり方
- 仰向けに寝て、両膝を立てる
- 肛門をキュッと素早く締めて、パッとゆるめる
- 次に、5〜10秒ほどギューッと締めて、じんわりゆるめる
- この2つを合わせて10回。1日3〜5セットが目安
コツ3つ
- おならを我慢するようなイメージで締める
- 締めたあとは必ず完全にゆるめる(締める・ゆるめるの繰り返しで鍛えられます)
- おなか、おしり、太ももに力が入っていないか、ときどき確認する
慣れてきたら、座った姿勢でも、立った姿勢でもできます。テレビを見ながら、通勤の電車の中でも、傍から気づかれることはありません。
やってはいけないこと
「おしっこを途中で止める練習」はしないでください。締める感覚をつかむ方法として紹介されることがありますが、繰り返すと排尿のリズムが乱れて、かえって尿が残りやすくなります。体操は、必ずトイレ以外の場所で行ってください。
正直にお伝えすると、「この体操をすれば必ず早く治る」と言い切れるほど、研究の結果がそろっているわけではありません。ただ、外来で拝見していると、続けている方のほうが「自分でコントロールできている」という感覚を取り戻すのが早いと感じます。お金もかからず、体に負担もありません。やらない理由はない、というのが私の考えです。
可能なら、手術の前から
これから前立腺がんの手術を予定している方は、術前から始めておくことをおすすめします。手術のあと、早い時期の回復が良くなるという報告があります。手術前は、がんの告知や治療方針の決定など、考えることが山ほどある時期です。体操にまで意識が向かない、というのが本音だと思いますが、主治医から手術の説明を受けたその日に、この体操のことを思い出していただけたら嬉しいです。すでに手術を受けた方も、始めるのに遅すぎるということはありません。
パッドは「小さく、こまめに」が基本

体操が「回復を促す道具」だとすれば、パッドは「今日の生活を支える道具」です。選び方にはコツがあります。
必ず「男性用」を選ぶ
意外と知られていないのですが、尿もれパッドには男性用があります。女性用とは形がまったく違います。女性用は下着の前後に広がる形。男性用は、前側に吸収体が集中していて、包み込むような形です。尿の出口の位置が違うのですから、当然のことです。ご家族の女性用を試して、位置が合わず、吸収体のないところから漏れてしまう方がいらっしゃいます。パッケージに「男性用」「メンズ」と書かれたものを選んでください。
「尿もれパッド」と「尿とりパッド」は別物
売り場には、よく似た名前の商品が並んでいます。尿もれパッドは、下着に貼って使う薄いタイプ(今日お話ししているのはこちらです)。尿とりパッドは、紙パンツやオムツの中に敷いて使う大きなタイプで、介護用品の売り場にあります。名前が似ているので、迷ったら店員さんや薬剤師さんに聞いてください。
大きければ安心、ではない
「不安だから」と、いきなり吸収量の多いパッドを選ぶ方がいます。気持ちはよくわかりますが、正直に言っておすすめしません。吸収量が多いものは、その分だけ厚く、大きくなります。ゴワつく、蒸れる、動きにくい。そして何より、「まだ大丈夫だろう」と、交換の間隔が空いてしまいがちです。
漏れる量より、少しだけ余裕のあるものから試す。2〜3週間も試せば、ご自身に合う量は必ず見つかります。外出の日だけ吸収量の多いものにする、という使い分けをされている方も多いです。
| 漏れ方の目安 | パッドの吸収量 |
|---|---|
| ちょい漏れ | 1桁台(cc) |
| くしゃみで時々漏れる程度 | 10〜30cc |
| 量がまとまってしまう場合 | 100cc以上 |
参考までに、1回の排尿量はおよそ200〜400mL。尿もれパッドは、1回分の尿をまるごと受け止める道具ではなく、あくまで漏れてしまった分を受け止めるものだと考えてください。
交換は、行動に紐づける
交換の目安は、3〜4時間に1回です。「濡れた感じがしないから、まだいける」——この判断はあてになりません。尿もれパッドは、表面をさらっと保ったまま内側に吸い込む構造です。気づきにくいことこそが、この道具の落とし穴です。
朝の身支度のとき、昼食のあと、トイレに行ったついで。そんなふうに行動に紐づけてしまうと、習慣になります。濡れた状態が続くと、肌がふやけて弱くなり、かぶれやかゆみの原因になります。赤みやかゆみが出たら、我慢せず、皮膚科か泌尿器科にご相談ください。
「買いに行くのが気まずい」という方へ

「あの売り場に立つのが気まずい」
「レジに持っていきたくない」
——外来でも、よく聞く声です。ですが、その恥ずかしさで、外出や趣味を諦めてしまうのは、あまりにもったいないことです。実は、漏れることそのものよりも、「漏れるかもしれない」という不安のほうが、行動範囲を狭めてしまう力は大きいのです。
買いにくさが気になる方は、インターネット通販という選択肢があります。中身がわかる形では届きませんし、まとめ買いで割安になることもあります。ドラッグストアなら、介護用品の売り場です。生理用品の棚とは別の場所にあることが多いので、薬剤師さんに聞けば案内してもらえます。
外出時は、目的地やルート上のトイレの場所をあらかじめ確認しておく。座席が選べるなら、通路側にしておく。それだけでも「行ってみよう」という気持ちになれます。
水分を極端に減らすのは逆効果です
漏れるのが怖くて、水分を極端に減らす方がいますが、これは逆効果です。水分が減ると尿が濃くなり、かえって膀胱を刺激して尿意が近くなります。脱水や、血液が濃くなることによる別のリスクもあります。減らすべきは量ではなく、タイミングと中身です。外出の直前や寝る前の大量の水分、カフェインやアルコールを控え、日中はいつもどおりに飲んでください。
こんな症状があれば、様子を見ずに受診を

- 血尿が出た
- 熱が出た
- 痛みがある
- 急に漏れがひどくなった
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まとめ

- 男性の尿もれは3つのタイプがあり、「出にくいのに漏れる」場合はパッドではなく受診が必要です
- 前立腺の手術後の尿もれは、体のつくり上起こるべくして起こるもので、多くは半年から1年で落ち着いていきます。それでも困る場合には、手術という治療の選択肢もあります
- パッドで今日の生活を支えながら、骨盤底筋体操で回復を後押ししていきましょう
パッドで安心してしまって、体操をおろそかにすると、根本的な改善は遠のきます。パッドを使う日こそ、体操も忘れずに。尿もれは、恥ずかしいことでも、隠すべきことでもありません。多くの男性が通る、ごく自然な道です。正しい知識と道具を味方につけて、今日からできることを始めてみてください。
よくある質問
- 排尿後にポタポタ漏れるのは病気ですか?
- 「排尿後尿滴下」といい、尿道に残っていた尿があとから出てくるもので、病気ではありません。加齢とともに多くの男性が経験します。排尿後に陰嚢の裏側あたりに指を当てて尿道に残った尿を前へ押し出す「ミルキング」という方法で、気にならなくなる方がほとんどです。
- 前立腺の手術後の尿もれはいつ治りますか?
- 多くの方は術後3か月ごろから明らかに減りはじめ、半年から1年ほどかけて落ち着いていきます。ただし回復のペースには個人差があり、年齢やもともとの排尿の状態、手術方法によっても変わります。パッドの吸収量を段階的に下げていけること自体が、回復の目安になります。
- 骨盤底筋体操はいつから始めればいいですか?
- これから前立腺がんの手術を予定している方は、術前から始めておくと術後早期の回復が良くなるという報告があります。すでに手術を受けた方も、始めるのに遅すぎるということはありません。仰向けで両膝を立て、素早く締めてゆるめる動作と、5〜10秒締めてじんわりゆるめる動作を合わせて10回、1日3〜5セットが目安です。
- 尿もれパッドは女性用でも代用できますか?
- 代用はおすすめしません。女性用は下着の前後に広がる形、男性用は前側に吸収体が集中した形で、尿の出口の位置に合わせて構造が異なります。女性用を使うと吸収体のない位置から漏れてしまうことがあるため、パッケージに「男性用」「メンズ」と書かれたものを選んでください。
- 1年経っても尿もれが改善しない場合はどうすればいいですか?
- 1年を過ぎても日常生活に困るほどの漏れが続く場合、我慢し続ける必要はありません。人工尿道括約筋という、尿道のまわりに埋め込んだカフで尿道を締め、排尿時にご自身でポンプを押してゆるめる治療があり、日本でも保険診療で受けられます。諦める前に一度、泌尿器科で相談してください。

