こんにちは!所沢いそのクリニック院長の磯野誠です。
「注射さえ打っていれば、あとは何もしなくていい」
——ホルモン療法を始めた患者さんから、外来でよく耳にする言葉です。
しかし実際には、ホルモン療法が始まると体は静かに、でも確実に変化していきます。
骨が弱くなる、筋肉が落ちる、血糖値が乱れやすくなる。
これらの副作用の出方を大きく左右するのは、毎日の食事と生活習慣です。
本記事では、前立腺がんのホルモン療法を受けている方、またはこれから治療を始める方とそのご家族に向けて、避けるべき4つのNG習慣と積極的に摂りたい5つの食品を、医学的根拠をもとに具体的にご説明します。
ホルモン療法とは|なぜ副作用が起きるのか
前立腺がんは、テストステロン(男性ホルモン)を栄養にして増殖する性質を持っています。
ホルモン療法(内分泌療法)とは、薬剤や注射によってこのテストステロンの働きを抑え、がん細胞の成長を食い止める治療法です。
手術・放射線治療と並ぶ重要な選択肢で、進行がんにも広く用いられています。
ただし、テストステロンは骨を強く保つ・筋肉を維持するという役割も担っています。
ホルモン療法でテストステロンを抑えることで、体にはさまざまな変化が生じます。
ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)/筋肉量の低下/骨粗しょう症(骨密度の低下)/女性化乳房/性欲の低下/体重増加・内臓脂肪の増加/血糖値の乱れ/気分の落ち込み
副作用は全員に同じように出るわけではなく、出る時期も個人差があります。
「まだ自分は大丈夫」という感覚は危険で、体調の変化を日頃からメモしておき、診察時に正確に伝えることが早めの対策につながります。
ホルモン療法中に避けるべきNG習慣4つ
副作用を悪化させる可能性がある、日常生活の中の4つの習慣をご紹介します。
一気に全部変える必要はありません。
まず1つだけ意識することから始めてください。
NG① 高脂肪肉・加工肉
脂身の多い肉や、ベーコン・ウィンナーなどの加工肉は体内の慢性炎症を引き起こす原因になります。
ホルモン療法中は内臓脂肪が増えやすく血糖値も乱れやすい状態にあるため、炎症を促す食品との組み合わせは体への負担をさらに大きくします。
WHO(世界保健機関)は加工肉をがんとの関連が確認された物質として分類しています。
代替案:脂身の少ない鶏むね肉・ささみ・魚への置き換えから始めましょう。
週2〜3回、夕食の肉料理を魚料理に変えるだけで十分です。
NG②砂糖・甘い飲み物
缶コーヒー・ジュース・甘いお菓子などは血糖値を急激に上昇させます。
インスリンが慢性的に過剰分泌される状態が続くと、IGF-1と呼ばれる成長因子が活性化され、がん細胞の増殖を促す可能性が研究で示されています。
さらに、ホルモン療法中の患者さんは糖尿病の発症リスクが約44%高まるという報告もあります。
代替案:まず飲み物を水・お茶・緑茶に変えるだけで糖分の摂取量は大幅に減ります。
NG③過剰なアルコール
アルコールが体内で分解される過程で生じるアセトアルデヒドは、全身の炎症を引き起こすとともに肝臓に負担をかけ、ホルモンバランスにも影響を与えます。
問題となるのは「毎日飲み続ける習慣」です。
目安:週2日以上の休肝日を設け、量も少しずつ減らしていくことを意識してください。
急にやめるのが難しければ、まず週1日の休肝日から始めましょう。
NG④運動不足・座りっぱなし
1日7時間以上の座位生活はさまざまな健康被害と関連することが報告されています。
ホルモン療法中は筋肉量が落ちやすいため、動かない生活は副作用をさらに加速させます。
「治療中だから安静に」という考えは誤りで、定期的な身体活動こそが副作用を和らげる最も効果的な手段の一つです。
まず:1日10〜15分の散歩から始めるだけで十分です。治療中でも動いていい、むしろ動いた方がよいことを覚えておいてください。
副作用を和らげる食品5つ|積極的に摂りたい食材
NG習慣を減らすと同時に、ホルモン療法中の体に特別な意味を持つ食品を積極的に取り入れましょう。
特別な食材である必要はなく、いずれも普通のスーパーで手に入るものばかりです。
① 青魚(サバ・イワシ・サンマ)
青魚に豊富に含まれるDHA・EPAは、慢性炎症を強力に抑える「消火剤」のような働きをします。
一部の研究では骨の健康をサポートする可能性も示されており、ホルモン療法中に特におすすめの食品です。
② 緑茶
緑茶に含まれるカテキンは体の酸化を防ぎ、炎症を抑え、がん細胞に直接作用する可能性が研究で示されています。
疫学研究では、緑茶を習慣的に飲む男性で前立腺がんの進行リスクが低い傾向も報告されています。
③ トマト
トマトの赤い色素リコピンは強力な抗酸化作用を持ち、前立腺組織に集まりやすい性質があります。
複数の疫学研究で、トマトを多く食べる男性は前立腺がんリスクが低い傾向が示されています。
④ ブロッコリー
ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは、体内の解毒機構を活性化させ、がん細胞の増殖を妨げる可能性が複数の研究で示されています。特に「ブロッコリースプラウト(新芽)」はスルフォラファンをブロッコリー本体より高濃度に含みます。
⑤ 大豆製品(納豆・豆腐・豆乳)
大豆イソフラボンはアジア人男性を対象とした疫学研究で前立腺がんリスクとの低下との関連が報告されています。
また、大豆は筋肉の材料となる良質なたんぱく質の供給源としても優秀で、治療中に筋肉量を維持するうえでも重要です。
※サプリによる大量摂取は避けてください。
サプリメントなどで大量摂取することは推奨されていないため、「食品から、無理のない量で」を守ってください。
また、特定の薬剤と相互作用する場合があるため、サプリを検討する際は必ず主治医にご相談ください。
骨と筋肉を守る生活習慣
骨粗しょう症を防ぐ
ホルモン療法を継続すると、骨密度が年間2〜4%程度低下するという報告があります。
治療期間が長くなるほど骨折リスクは高まります。
「骨が痛い」という症状が現れた頃には、すでに骨密度がかなり低下していることも少なくありません。
食事面では、小魚・乳製品・大豆製品などカルシウムを多く含む食品を意識して摂ることが重要です。
ただし、カルシウムはビタミンDがなければ腸からうまく吸収されません。
ビタミンDは日光を浴びることで皮膚で合成される栄養素です。
晴れた日に15〜30分の散歩をするだけで、骨の健康維持と運動不足解消の両方を同時に実現できます。
曇りの日でも屋外に出るだけで効果があります。
筋肉量の低下を防ぐ
筋肉量を維持するには、たんぱく質の十分な摂取と軽い筋力トレーニングの組み合わせが効果的です。
激しい運動は必要ありません。
スクワットや椅子を使った立ち座り運動を週2〜3回、無理のない範囲で続けるだけで、筋肉が落ちるスピードを緩やかにすることができます。
たんぱく質の供給源としては、前述の青魚・大豆製品・鶏むね肉がおすすめです。
気分の落ち込みへの対処
ホルモン療法中はホルモンバランスの変化により、気分が落ち込んだりイライラしたりすることがあります。
これはあなたの性格や意志の問題ではなく、治療による体の変化です。
ご家族や周囲の方に「治療の影響で疲れやすい時期がある」と伝えておくことが、心の健康を保つうえでも大切です。
まとめ|今日からできることリスト
| カテゴリ | 具体的な行動 |
|---|---|
| NG 高脂肪肉・加工肉 | 週2〜3回、夕食の肉料理を魚料理に置き換える |
| NG 甘い飲み物 | 缶コーヒー・ジュースを水・緑茶に変える |
| NG 過剰なアルコール | 週2日以上の休肝日を設ける |
| NG 座りっぱなし | 1日10〜15分の散歩を習慣にする |
| OK 青魚 | 週2〜3回。缶詰でも可 |
| OK 緑茶 | 食事のたびに1杯 |
| OK トマト | 加熱調理でリコピン吸収率アップ |
| OK ブロッコリー | スプラウトをサラダに加える |
| OK 大豆製品 | 1日1パックの納豆を目安に(食品として適量を) |
| OK 日光浴+運動 | 晴れた日に15〜30分の散歩でビタミンD補充と骨・筋肉維持 |
治療の効果を最大限に引き出すのは薬だけではありません。
毎日の食事と習慣が、ホルモン療法の副作用を大きく左右します。
一度に全部変える必要はなく、今日から1つだけ変えることから始めてください。
体重の変化・骨の痛み・強い疲労感など気になることがあれば、次の受診で必ず担当医に伝えてください。
副作用は一人で抱え込まず、主治医と一緒に管理していくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 前立腺がんのホルモン療法中に食べてはいけないものは何ですか?
A. 特に注意が必要なのは、脂身の多い肉・ベーコンやウィンナーなどの加工肉、缶コーヒーやジュースなど甘い飲み物、そして毎日飲む過剰なアルコールの3つです。
これらは体内の炎症を促進したり、血糖値を乱したりする原因になります。
ただし完全に禁止する必要はなく、少しずつ減らしていくことから始めてください。
A. 青魚(サバ・イワシ・サンマ)、緑茶、トマト、ブロッコリー(特にブロッコリースプラウト)、大豆製品(納豆・豆腐・豆乳)の5つがおすすめです。
いずれも炎症を抑え、骨・筋肉・血糖値の管理をサポートする成分を含んでいます。
Q. ホルモン療法中に運動してもいいですか?
A. はい、適度な運動は積極的に行うことが推奨されます。「治療中だから安静にしなければ」という考えは誤りで、定期的な身体活動はむしろ副作用を和らげるうえで非常に効果的です。
まずは1日10〜15分の散歩から始め、余裕が出てきたら週2〜3回の軽いスクワットなども取り入れると、骨と筋肉の維持につながります。
A. テストステロンは骨密度を維持する役割も担っています。
ホルモン療法でテストステロンを抑制することで骨密度が年間2〜4%程度低下するという報告があり、治療期間が長くなるほど骨折リスクが高まります。
カルシウムの多い食品(小魚・乳製品・大豆製品)を摂りながら、日光浴と軽い運動を習慣にすることが重要です。
2年以上治療を続けていて骨密度検査をまだ受けていない方は、主治医にご相談ください。
Q. 大豆イソフラボンはホルモン療法中に摂っても大丈夫ですか?
A. 納豆・豆腐・豆乳などの食品として日常的な量を摂ることは問題ありません。
アジア人男性を対象とした疫学研究では前立腺がんリスクの低下との関連も報告されています。
ただし、サプリメントなどによる大量摂取は推奨されていません。
食品として通常の食事の中で摂ることを心がけ、サプリを使用する場合は必ず主治医にご相談ください。
Q. ホルモン療法中に気分が落ち込むのは正常ですか?
A. はい、ホルモン療法によるホルモンバランスの変化で、気分の落ち込みやイライラが生じることはよく起こります。
これはご本人の性格や意志の問題ではなく、治療による体の変化です。
周囲の方に「治療の影響で疲れやすい時期がある」と伝えておくことが助けになります。
症状が強い場合は担当医にご相談ください。

