こんにちは。院長の磯野 誠です。
「人生でこれまでに経験した中で、最も痛かったものは何ですか?」
ある人は「複雑骨折」と言い、ある人は「ひどい火傷」と言うかもしれません。しかし、医療の現場で「痛みの王様」とまで呼ばれ、恐れられている病気があります。それが「尿路結石」です。
尿路結石の痛みは、よく「出産に匹敵する」とか「背中にバットをフルスイングされたような衝撃」と表現されます。あまりの痛みに救急車を呼ぶ人も少なくありません。しかし、専門医として本当にお伝えしたいのは、「痛みが引いた後こそが本当の恐怖の始まりかもしれない」ということです。
この記事では、結石ができる意外なメカニズム、そして私たちが無意識にやってしまっている「石を育てる悪習慣」について、詳しく解説していきます。
1. 尿路結石とは何か?――体の「配管トラブル」を理解する
まず、敵を知るために私たちの体の仕組み、特に「おしっこの通り道」を整理しましょう。
「尿路」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、家でいうところの「下水道」のようなものです。
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腎臓(工場): 血液をろ過して、おしっこを作ります。
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尿管(パイプ): 腎臓から膀胱へと続く、左右一本ずつの細い管です。
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膀胱(タンク): おしっこを一時的に溜めておく場所です。
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尿道(出口): 溜まったおしっこを外へ出す最後の通り道です。
このルートのどこかに石ができるのが「尿路結石」です。石がある場所によって「腎結石」「尿管結石」「膀胱結石」と名前は変わりますが、臨床現場で最も問題になるのは、腎臓や尿管にあるケースです。
なぜあんなに痛いのか?痛みの正体
ここで多くの人が誤解しているポイントがあります。 「石が尖っているから、内側をチクチク刺して痛いんでしょ?」 実は、それだけが理由ではありません。
石が腎臓の中に留まっている間(腎結石)は、意外にも痛みはほとんどありません。スペースが比較的広いため、神経を強く刺激しないのです。
地獄が始まるのは、この石が腎臓から飛び出し、細長い「尿管」に落ちてきた瞬間です。 尿管は非常に細い管で、広い場所でも直径4〜8ミリ程度。狭い場所だと数ミリしかありません。例えるなら「パスタの麺」くらいの太さです。そこに、金平糖のようにトゲトゲした硬い石が強引に入り込んでくるわけです。
石が詰まると、上流(腎臓側)から流れてくるおしっこがせき止められます。すると行き場を失ったおしっこによって、尿管や腎臓の内圧が急激に上昇します。パンパンに膨れ上がった腎臓の被膜(外側の膜)が限界まで引き伸ばされる――。この「強烈な圧力」が周囲の神経を激しく刺激し、あの、のたうち回るような激痛を引き起こすのです。
2. 放置厳禁!「痛みが消えた=治った」という最大の罠
ここが今回の記事で最も重要なポイントかもしれません。 尿路結石は、激痛に襲われても、しばらくすると嘘のように痛みが引くことがあります。
「あ、痛くなくなった。石が流れたのかな?」 「病院に行く時間はもったいないし、このまま様子を見よう」
忙しいビジネスパーソンほど、こう考えてしまいがちです。しかし、はっきり言います。これは命に関わることもある、非常に危険な判断です。
「痛くない=石がなくなった」ではない
痛みが消えた理由は、石が動いて一時的におしっこの流れが再開しただけかもしれません。あるいは、神経が麻痺してしまっただけかもしれません。石が尿管に詰まったまま放置すると、以下のような恐ろしい事態を招きます。
① 水腎症(すいじんしょう)と腎機能低下
川の流れにダムができた状態をイメージしてください。せき止められたおしっこの圧力が腎臓にかかり続け、腎臓がパンパンに腫れ上がります。これを「水腎症」と言います。 腎臓の細胞は非常に繊細です。圧迫され続けると徐々にダメージを受け、その機能は低下していきます。恐ろしいのは、腎臓は一度機能が失われると、元の状態に戻りにくいということです。「たかが石」と甘く見ている間に、片方の腎臓が完全に機能不全に陥ってしまうケースも珍しくありません。
② 腎盂腎炎と敗血症(はいけつしょう)
さらなる脅威は「細菌感染」です。 おしっこが流れずに淀んでいる場所は、細菌にとって最高の繁殖場所です。結石による閉塞に感染が加わると「腎盂腎炎」という高熱が出る病気になり、さらに悪化すると菌が血液に乗って全身をめぐる「敗血症」へと進行します。 敗血症は、現代医療をもってしても死亡率が高い、極めて危険な状態です。尿路結石は「ただ痛いだけの病気」ではなく、状況次第では「死に至る病気」であることを忘れないでください。
3. 尿路結石ができる仕組み――理科の「飽和」と同じ原理
では、そもそもなぜ、液体であるおしっこの中に「石」なんて固形物ができるのでしょうか?
この仕組みは、小学校の理科で習った「食塩水の実験」に似ています。 コップの水に食塩をどんどん溶かしていくと、ある一点を超えたところで溶けきれなくなり、底に結晶が溜まりますよね。これと同じことが、あなたのおしっこの中で起きているのです。
おしっこは、体内の老廃物を水に溶かして捨てるための液体です。 この中に、
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「石の材料になる成分」が増えすぎる
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「成分を溶かすための水分」が減りすぎる このバランスが崩れると、成分が結晶化し、時間をかけて雪だるま式に大きくなり、やがて目に見える「石」へと成長します。
日本人の結石の約8割以上は、「シュウ酸カルシウム結石」と呼ばれるものです。 この主役は「シュウ酸」と「カルシウム」。本来、この2人は体の中で適切に管理されていますが、ある条件下で出会うと強力に結びつき、ガチガチに硬い結晶を作ってしまうのです。
この「結晶化のスイッチ」を押してしまうのが、他でもない皆さんの日々の生活習慣なのです。
4. 「絶対に避けたい生活習慣」5選
現代において尿路結石が急増している理由は、遺伝よりも明らかに「食生活」と「生活リズム」の変化にあります。特に忙しい大人が陥りがちな、5つのNG習慣を見ていきましょう。
NG習慣①:水分をあまり摂らない
これは基本中の基本ですが、最も多い原因です。水分が少なければ、当然おしっこは濃くなります。 特に注意が必要なのは、オフィスワーカーです。エアコンの効いた室内では喉の渇きを感じにくく、自覚がないまま脱水状態になっていることがよくあります。 「コーヒーや紅茶を飲んでいるから大丈夫」という方も要注意。これらには利尿作用があるため、飲んだ量以上に水分を排出してしまうことがあり、補給には適していません。
NG習慣②:夕食を食べてすぐ寝る
「仕事で帰りが遅くなり、夜11時にドカ食いしてそのままベッドへ……」 心当たりはありませんか?実は、結石が最も作られやすいのは「寝ている間」です。 食事をすると、数時間かけて尿中に石の材料(カルシウムやシュウ酸)が排出されます。食べてすぐ寝ると、寝ている間にこれらが高い濃度で尿の中に溜まります。しかも睡眠中は水分を摂らないため、おしっこはどんどん濃縮されます。つまり、寝ている間の体は「石作り工場」がフル稼働している状態なのです。
NG習慣③:肉類・脂っこい食事への偏り
動物性タンパク質を過剰に摂取すると、体内で「シュウ酸」や「尿酸」が増えやすくなります。また、おしっこが酸性に傾くため、石ができやすい土壌を作ってしまいます。 焼肉、ラーメン、揚げ物……。美味しいものは石の材料になりやすいという、非常に皮肉な現実があります。
NG習慣④:健康のためと思って「シュウ酸」を摂りすぎている
これが最大の落とし穴です。 シュウ酸は、ほうれん草、キャベツ、ブロッコリーなどの野菜、ナッツ類、チョコレート、コーヒー、紅茶、バナナなどに多く含まれます。 「毎朝、生のほうれん草でスムージーを作っている」 「おやつは健康のためにナッツと高カカオチョコにしている」 これらは一般的な健康法としては素晴らしいですが、結石のリスクという点では、シュウ酸の過剰摂取になっている可能性があります。
NG習慣⑤:カルシウムを意図的に避けている
「石はカルシウムの塊だから、カルシウムは摂らないほうがいいんでしょ?」 これは、ひと昔前の古い常識です。現在は「カルシウム不足こそが結石を招く」ことが医学的に証明されています。なぜそうなるのか、そのメカニズムは次の予防策のパートで詳しく解説します。
5. 激痛を回避する!今日からできる4つの予防策
脅かすような話が続きましたが、安心してください。尿路結石は、正しい知識を持って生活習慣を見直せば、高い確率で予防・再発防止ができる病気です。
対策1:とにかく「水」を飲む。目標は尿量2リットル
最もシンプルで、最も効果的な薬は「水」です。 1日の「おしっこの量」が2リットル以上になることを目指しましょう。そのためには、食事以外に1日2リットル程度の水分補給が必要です。 ポイントは、一度に大量に飲むのではなく、コップ一杯の水をこまめに飲むこと。特に「寝る前」と「起きた直後」は、夜間の尿濃縮を防ぐためのゴールデンタイムです。
対策2:カルシウムを「食事と一緒に」摂る
先ほどのパラドックスの答え合わせです。 カルシウムをしっかり摂ると、腸の中で「シュウ酸」と「カルシウム」が出会います。ここで二人がくっつくと、そのまま便として体の外へ捨てられます。 しかし、カルシウムが不足していると、シュウ酸は相手を見つけられず、腸で吸収されて血液に乗ってしまいます。そして腎臓まで運ばれ、そこでおしっこの中のカルシウムと出会って、石になってしまうのです。 「腸の中でシュウ酸を捕まえて、便として捨てる」。そのためにカルシウムが必要なのです。
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コーヒーにはミルクを入れる
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ほうれん草にはちりめんじゃこや鰹節を添える この「食べ合わせ」こそが、最強の予防策になります。
対策3:シュウ酸を減らす調理の工夫
シュウ酸を含む食品を完全に断つ必要はありません。調理法で工夫しましょう。 シュウ酸は水に溶けやすい性質があります。ほうれん草などは「茹でて、水にさらす」ことで大幅にカットできます。生のままサラダやスムージーで大量に食べるのは控えましょう。
対策4:クエン酸を積極的に活用する
レモン、お酢、梅干しなどに含まれる「クエン酸」は、シュウ酸とカルシウムが結びつくのを邪魔する働きがあります。また、おしっこをアルカリ性に近づけ、石を溶けやすくする効果も期待できます。 唐揚げにレモンを絞る、サラダにドレッシングではなくお酢を使うといった、小さな習慣があなたを救います。
6. 早期受診の判断基準――こんな時は迷わず病院へ
最後に、もし痛みが出てしまった時の判断基準をお伝えします。
「背中や脇腹に激痛がある」場合は、迷わず泌尿器科を受診してください。夜間であっても、痛みが我慢できないレベルなら救急車を呼んで構いません。 また、「なんとなく腰が重い」「背中を叩くと響くような痛みがある」「血尿が出た」という場合も、石が隠れているサインです。
特に以下の3つの症状がある場合は、「超緊急事態」です。一刻も早く病院へ行ってください。
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38度以上の高熱が出ている(感染による重症化のサイン)
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おしっこが全く出ない(両側、あるいは唯一の腎臓が完全に詰まっている可能性)
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激痛で水分が摂れず、嘔吐を繰り返している
早期に発見できれば、体外から衝撃波を当てて石を砕く「ESWL」や、内視鏡による手術など、体に負担の少ない方法で確実に治療することが可能です。
結びに:体からのSOSを無視しないで
いかがでしたでしょうか。 尿路結石の仕組みから、絶対に避けたい生活習慣まで、詳しくお話ししてきました。
重要なポイントは3つ。
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「痛くない=治った」ではない。 放置は腎臓を破壊する。
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結石の正体は「生活習慣の歪み」。 水分不足や深夜の食事が石を育てる。
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予防のキーワードは「水」と「カルシウム」。 シュウ酸を腸で捕まえよう。
尿路結石は、体からの「今の生活習慣を見直してほしい」という切実なSOSサインでもあります。
あなたの健康は、あなた自身だけでなく、あなたを大切に思う人たちにとっても、かけがえのない財産です。
痛みで苦しむ時間を、人生を謳歌する時間に変えるために。 まずは今日からできることを、一つでも始めてみてください。

