帯状疱疹は、脊髄神経節という部位に潜んでいる水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされます。はじめて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染するのは、子どものころがほとんどですが、その時には水ぼうそうとして発症します。水ぼうそうが治った後も、ウイルスは身体から消えることはなく、脊髄から伸びる神経節に潜んでいます。健康で免疫が維持されている間は、水痘・帯状疱疹ウイルスの活動は抑えられておりますが、加齢や疲労、ストレスなどにより免疫力が低下すると、ウイルスが再び活動を開始し、神経の流れに沿って皮膚に達して、帯状に痛みや発疹が現れるようになります。日本人では80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれています。当院の院長は、12歳のときと35歳のときに帯状疱疹を発症しました。
帯状疱疹の症状
帯状疱疹の主な症状には、「皮膚に現れる発疹」と「神経の炎症に伴う痛み」の2つがあります。
① 皮膚の発疹
帯状疱疹の発疹は、神経の走行に沿って帯状に現れるのが大きな特徴です。これは、体内に潜伏していたウイルスが神経を伝って皮膚表面に出てくるために起こります。人間の神経は体の中心(背骨)を境に左右に分かれているため、発疹が体の真ん中を越えて広がることはほとんどありません。
症状の経過としては、まず皮膚に赤い斑点や小さな盛り上がり(紅斑・丘疹)が現れます。その後、数日以内につやのある水ぶくれ(水疱)に変化し、3〜4日経つと膿(うみ)が溜まった膿疱(のうほう)になります。
通常、1週間ほどで水ぶくれは乾燥してかさぶたになり、かさぶたになれば他人にウイルスをうつす心配はなくなります。ただし、発疹の跡が色素沈着として数ヶ月から数年にわたって残ることがあります。
発疹は体のどこにでもできる可能性がありますが、特に胸から背中、腹部、腰回りなどに見られることが多いです。
② 痛み
痛みは、帯状疱疹の代表的な症状です。「ズキズキと刺すような痛み」や「ヒリヒリと焼けるような痛み」と表現されることが多く、この急性期の痛みは長引く傾向にあります。個人差はありますが、約5人に1人の方が30日以上にわたって痛みを経験するといわれています。
多くの場合、痛みは発疹が現れる数日前から始まります。痛みの感じ方は様々で、一日中続くこともあれば、断続的に痛むこともあります。このように、皮膚症状がない段階では診断が難しく、痛む場所によっては心臓や内臓の病気と間違われるケースも少なくありません。
この発疹が出ている間の痛みは「急性期痛」と呼ばれ、皮膚症状が治まった後も続く「帯状疱疹後神経痛(PHN)」とは区別されます。両者は痛みの性質や治療法が異なるため、正しく理解しておくことが重要です。
帯状疱疹の治療:早期開始が鍵。抗ウイルス薬の種類と効果
帯状疱疹の治療は、ウイルスの増殖を抑え、つらい皮膚症状や痛みをできるだけ早く、そして軽くすることを目的とします。また、早期に適切な治療を行うことで、後遺症として最も問題となる「帯状疱疹後神経痛(PHN)」へ移行するリスクを軽減することも重要な目標です。
治療開始のタイミング【72時間以内が重要】
帯状疱疹の治療効果を最大にするためには、発疹などの皮膚症状が現れてから72時間(3日)以内に抗ウイルス薬の服用を開始することが極めて重要です。これは、ウイルスの増殖が最も活発な時期に薬を投与することで、その勢いを効率よく抑え込めるためです。
もし72時間を過ぎてしまっても、新しい水ぶくれが出続けているようなら、まだウイルスが増殖している証拠です。この場合は、薬の投与を開始することで症状の悪化を防ぐ効果が期待できます。
一方で、すべての発疹が「かさぶた」に変わってしまった後は、ウイルスの増殖がすでに止まっている状態のため、この段階から抗ウイルス薬を服用しても大きな効果は期待できません。
帯状疱疹治療の中心となる「抗ウイルス薬」
治療の主役となるのは、ヘルペスウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」です。現在、主に以下の4種類の薬が使われています。
- アシクロビル(商品名:ゾビラックス)
- バラシクロビル(商品名:バルトレックス)
- ファムシクロビル(商品名:ファムビル)
- アメナメビル(商品名:アメナリーフ)
最初に開発されたのはアシクロビルですが、1日に5回服用する必要があるため、現在はより飲みやすく改良された薬が主流です。
バラシクロビルやファムシクロビルは、アシクロビルを改良した薬で、体内への吸収効率が良く、1日3回の服用で済むため、世界的に広く処方されています。
アメナメビルは近年日本で開発された新しい薬です。1日1回の服用で済み、腎臓の機能によって薬の量を調整する必要がないため、高齢の方や腎機能が低下している方にも使いやすいという大きなメリットがあります。
これらの薬の効果自体に大きな優劣はなく、患者さんの年齢、腎機能、ライフスタイルなどを考慮して最適な薬を選択します。
抗ウイルス薬の具体的な効果
適切なタイミングで治療を開始することで、以下のような効果が期待できます。ある臨床研究では、発疹出現後72時間以内にファムシクロビルを投与した結果が報告されています。
・皮膚症状が治るまでの期間を短縮(研究では2日短縮)
・急性期の痛みが続く期間を短縮(研究では56日短縮)
・帯状疱疹後神経痛の発症率を低下(研究では約30%減少)
このように、帯状疱疹は「できるだけ早く医療機関を受診し、治療を開始すること」が、症状を軽くし、つらい後遺症を防ぐための最も有効な手段と言えます。
帯状疱疹の治療薬としてウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬が登場し、以前に比べて帯状疱疹の治療は容易になりましたが、それでも治療が長引くケースや治った後にも長期間、痛みが残るケースが少なくありません。帯状疱疹が治った後に後遺症として痛みなどの症状が残ると、日常生活に支障をきたすことがあるため、できれば帯状疱疹の発症を予防し、発症してしまった場合には早めに治療を開始することが重要です。
帯状疱疹ワクチン
このつらい帯状疱疹を予防するために開発されたのが「帯状疱疹ワクチン」です。ワクチンを接種することで、発症を予防したり、もし発症しても症状が軽く済んだり、後遺症である「帯状疱疹後神経痛(PHN)」のリスクを減らす効果が期待できます。
現在、日本で接種できる帯状疱疹ワクチンは「シングリックス®」と「弱毒生水痘ワクチン」の2種類。どちらも50歳以上の方が対象ですが、効果や費用、副反応に違いがあります。
【シングリックス®】高い効果でしっかり長期予防したい方向け
シングリックス®は、ウイルスの一部だけを使った安全性の高い「不活化ワクチン」です。2020年に認可された新しいワクチンで、その高い予防効果と持続性が最大の特徴です。
シングリックスの主な特徴
- 発症予防効果が極めて高い:50歳以上で97%、70歳以上でも91%と、年齢を問わず高い効果を発揮します。
- つらい後遺症も強力に予防:帯状疱疹後神経痛(PHN)の発症を、70歳以上で85%以上抑えることが報告されています。
- 効果が長期間持続する:最新の研究では、接種後10年以上経っても80%以上の高い予防効果が維持されることが分かっています。
- 免疫が弱い方でも接種可能:生ワクチンではないため、免疫機能が低下している方でも接種できる場合があります。(※医師との相談が必要です)
注意点
- 費用が高額:1回20,000円~25,000円程度(当院では税込22,000円)で、2回の接種が必要です。合計で4万円以上かかります。
- 副反応が出やすい:接種部位の痛みや腫れ、筋肉痛、だるさ、発熱などが比較的高い頻度で起こります。これは体内で強い免疫が作られている証拠で、多くは2~3日で治まります。
【弱毒生水痘ワクチン】費用を抑えて手軽に接種したい方向け
弱毒生水痘ワクチンは、病原性を弱めたウイルスを使った「生ワクチン」です。もともと子供の水ぼうそう予防に使われてきた実績のあるワクチンです。
弱毒生水痘ワクチンの主な特徴
- 費用が安い:1回の接種で済み、費用は8,000円~10,000円程度(当院では税込8,500円)とシングリックスに比べて安価です。
- 副反応が比較的少ない:シングリックスと比べ、接種後の痛みや発熱などの副反応が起こる頻度は低いとされています。
- 中程度の予防効果:帯状疱疹の発症を、60歳以上で約51%、後遺症である神経痛を約66%減らす効果が報告されています。
注意点
- 効果の持続期間が短い:予防効果は時間とともに低下し、接種後8年目には約32%まで下がるとのデータがあります。
- 接種できない方がいる:生ワクチンであるため、妊娠中の方や、抗がん剤治療・ステロイドなどで免疫機能が低下している方は接種できません。
費用と助成金について
ワクチン接種は自由診療のため、医療機関によって費用が異なります。
・弱毒生水痘ワクチン:8,000円~10,000円程度(1回)(当院では税込8,500円)
・シングリックス®:40,000円~50,000円程度(合計2回分)(当院では税込44,000円)
「シングリックスは高額…」と感じるかもしれませんが、近年、多くの自治体で帯状疱疹ワクチンの費用助成(補助金)制度が始まっています。助成を受けることで、自己負担額を大幅に減らすことができます。
お住まいの市区町村のホームページなどで最新情報を確認するか、かかりつけの医療機関に相談してみましょう。
どちらのワクチンを選ぶべき?
どちらのワクチンが良いか迷う方は、以下のポイントを参考にしてください。
シングリックス®がおすすめな方
- 予防効果を最優先し、帯状疱疹に絶対なりたくない方
- 効果を長期間持続させたい方
- 免疫抑制の治療中など、生ワクチンが接種できない方
弱毒生水痘ワクチンがおすすめな方
- 費用をできるだけ抑えたい方
- 接種回数を1回で済ませたい方
- 副反応が心配な方
ワクチン比較表
| 項目 | シングリックス (不活化ワクチン) |
水痘ワクチン (生ワクチン) |
|---|---|---|
| 価格 | 21,000円/回 | 7,500円 |
| 接種回数 | 2回(筋肉内注射) | 1回(皮下注射) |
| 接種間隔 | 1回目接種の2ヵ月後から6ヵ月後まで | ー |
| 特徴 | 長期の発症予防効果あり(9年以上) 1回あたりの接種料金が高額 |
短期の発症予防効果(5年程度) 1回の接種で完了 |
| 帯状疱疹 発症予防効果 |
50歳以上:97.2% 70歳以上:89.8% |
50歳代:69.8% 60歳代:64% 70歳代:41% |
| 帯状疱疹後 神経痛予防効果 |
50歳以上:100% 70歳以上:85.5% |
60歳以上:66.5% |
| 主な副反応 | 高頻度:注射部位の疼痛(約80%)、筋肉痛、疲労 稀にショックやアナフィラキシー |
副反応の発症率は低い 接種部位の発赤(約40%) 稀にアナフィラキシー、無菌性髄膜炎 |
| 接種を受けられない方 | 発熱、重篤な急性疾患、アナフィラキシー既往歴 | 発熱、重篤な急性疾患、妊婦、免疫抑制状態 |
| 他のワクチンとの接種間隔 | 新型コロナウイルスワクチンと13日以上空ける | 新型コロナウイルスワクチンと13日以上空ける 他の生ワクチンは27日以上空ける |
