こんにちは。院長の磯野 誠です。
健康診断や人間ドックで「PSA値が高い」と指摘され、病院で「前立腺針生検(ぜんりつせんはんりせいけん)」という精密検査を勧められた方へ。
「前立腺に針を刺すなんて、痛そうだし怖い……」
「何をされるのかわからなくて、頭が真っ白になった」
そんな不安を抱えて、検査を迷っていませんか?
前立腺がんは日本人男性のがん罹患数で最も多く、年間約9万人以上が新たに診断されています。多くの方がこの検査を経験していますが、事前に「どんな検査なのか」を知っておくだけで、精神的な負担はずいぶん軽くなります。
1. 前立腺針生検とは?なぜ「針」を刺す必要があるの?
前立腺針生検とは、前立腺がんの「確定診断」をつけるために行われる非常に重要な精密検査です。前立腺に細い針を刺して組織をわずかに採取し、専門の病理医が顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。
PSA値が高い=前立腺がん、ではありません
血液検査の「PSA(前立腺特異抗原)」は、前立腺の異常を早期に察知する優れたマーカーです。しかし、PSAは前立腺肥大症や前立腺の炎症など、がん以外の良性の病気でも数値が上がります。 そのため、MRIなどの画像検査でがんが疑われた場合、最終的に白黒をつける(確定診断)ためには、直接組織を取って調べる針生検が不可欠なのです。
がんの「顔つき(悪性度)」を調べる重要な役割
もしがんが見つかった場合、針生検の組織から「グリソンスコア」というがんの悪性度(顔つき)を判定します。
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グリソンスコア6点以下: おとなしいがんで、すぐに治療せず様子を見る「監視療法」の対象になることもある。
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グリソンスコア7点以上: 手術や放射線、ホルモン療法などの治療介入を検討する。
このように、針生検は「がんがあるかないか」だけでなく、「その後の最適な治療方針を決めるための羅針盤」となる検査なのです。
2. どんな人が前立腺針生検の対象になる?
主に以下の2つのケースで検査が推奨されます。
① がんの疑いがあり、確定診断が必要な方
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PSA値が基準値(一般的に4.0ng/mL)を超えている方(※年齢や状況により基準は異なります)
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MRIなどの画像検査で、がんと疑わしい影が見つかった方
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直腸診(医師が肛門から指を入れて前立腺の硬さを診る検査)で、硬いしこりなどの異常が見つかった方
② すでに「監視療法中」の方(再生検)
おとなしい前立腺がんと診断され、治療を保留して経過を診ている「監視療法中」の方も、定期的に針生検を行います。
「一度診断がついているのに、なぜまた痛い思いをするの?」と思われるかもしれません。しかし、がんは時間とともに性質(悪性度)が変わることがあります。悪化のサインを見逃さず、最適なタイミングで治療に切り替えるための「命を守る盾としての検査」であることをご理解ください。
3. 【痛くない?】検査当日の具体的な流れ
「何をされるのかわからない」という恐怖心をなくすため、当日の流れを順番にご説明します。現在、多くのクリニックで日帰りで行われています。
① 事前準備・感染予防
来院後、検査による感染症を防ぐために抗菌薬(抗生物質)を飲んでいただきます。
② 安心の「腰椎麻酔」
検査室のベッドで横向きになり、おへそを見るように丸まった姿勢をとります。背骨と背骨の間から細い針を刺し、麻酔薬を注入します。 「背中に針を刺すのが怖い」という方もご安心ください。腰椎麻酔はお産や一般的な手術でも広く使われる安全な麻酔です。下半身がしびれたような感覚になり、検査中の強い痛みはほとんど感じなくなります。
③ 検査本番(経会陰的針生検)
麻酔が効いたら、仰向けで両足を開く姿勢(砕石位)になります。肛門から超音波の機械を入れ、前立腺の画像をモニターで確認しながら、「会陰部(えいんぶ:陰嚢と肛門の間の皮膚)」から細い針を刺して組織を採取します。
かつては直腸(肛門の中)から針を刺す方法が主流でしたが、直腸内は細菌が多く感染リスクがありました。当院を含め、近年は皮膚からアプローチする「経会陰的(けいえいんてき)針生検」が主流となり、感染リスクが大幅に減少しています。
④ 何本くらい針を刺すの?
前立腺全体をまんべんなく調べるため、通常は10〜12本程度の組織を採取します(システム生検)。さらに、事前のMRIで怪しい影(ターゲット)が見つかっている場合は、そこを狙い撃ちする「MRI融合生検(標的生検)」を組み合わせるため、採取本数が数本増えることがあります。
⑤ 検査後の安静と帰宅
検査後3〜4時間はベッドで安静にしていただきます。麻酔が完全に切れ、ご自身の足で問題なく歩けること、そして自力で排尿できることを確認できたらご帰宅となります。
4. 知っておくべき合併症と「尿閉(にょうへい)」について
検査は安全に行われますが、医療行為である以上、いくつか起こりうる合併症(リスク)があります。事前に知っておけば「これは想定内だ」と冷静に対処できます。
① 尿が出なくなる「尿閉」とカテーテル
針を刺した刺激による前立腺の一時的な腫れと、麻酔による排尿機能の低下が重なると、膀胱に尿が溜まっているのに自力で出せない「尿閉」が起こることがあります。 その場合、細い管(尿道カテーテル)を一時的に入れて尿を出します。カテーテルは通常翌日には抜くことができ、その後は自力で排尿できるようになります。帰宅後に「尿が出たいのに全く出ない」状態になった場合は、我慢せずにすぐにご連絡ください。
② 出血(血尿・血精液症)
検査後、尿や精液に血が混じることが高確率で起こります。「血が出た!」と驚かれますが、これは針を刺したことによる一時的なもので、通常1〜2週間ほどで自然に治まります。ただし、血の塊が大量に出る場合や、血の塊が詰まって尿が出ない場合は受診が必要です。
③ 感染症(発熱)
経会陰的アプローチによりリスクは大きく減りましたが、前立腺に細菌が入り感染を起こすことがまれにあります。検査後に38度以上の高熱、強い悪寒、排尿時の強い痛みが出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。点滴による抗生剤治療が必要になる場合があります。
5. 検査前の「超重要」な確認事項
安全に検査を受けていただくため、以下の点にご注意ください。
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血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を飲んでいる方へ
脳梗塞や心臓病などの治療でこれらの薬を飲んでいると、検査後に出血が止まりにくくなります。一時的に薬を休む(休薬する)必要があるため、必ず事前にお薬手帳を見せて担当医に申告してください。(自己判断での休薬は大変危険です) -
検査後の生活制限
検査後数日間は、激しい運動、飲酒、長時間の入浴やサウナは控えてください。血流が良くなると出血や感染のリスクが高まります。
6. 結果の受け止め方:一人で抱え込まないでください
採取した組織を病理医が詳しく調べ、約2週間後の外来で結果をご説明します。
「結果を聞くのが怖くて病院に行きたくない……」というお気持ちは痛いほどわかります。しかし、結果を知ることが前に進むための唯一の第一歩です。
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陰性(がんなし)だった場合: ひとまず安心ですが、PSAが高い体質であることには変わりないため、今後も定期的なPSA検査で経過を見守ります。
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陽性(がんあり)だった場合: グリソンスコア(悪性度)や年齢、お体の状態を総合的に判断し、最適な治療法(監視療法、手術、放射線治療、ホルモン療法など)を一緒に話し合って決めていきます。
前立腺がんは、早期に発見し適切な治療を受ければ、長く付き合っていける病気です。「がん=終わり」では決してありません。
まとめ:不安なことは何でも聞いてください
前立腺針生検は、あなたの命と未来の生活を守るための大切な検査です。
検査の流れや合併症への対処法を知ることで、「得体の知れない恐怖」から「備えられる検査」へと変わったのではないでしょうか。万が一の夜間の連絡先や対応についても、当院では事前にお伝えし、万全のサポート体制を整えています。
「自分は日帰りでできる?」「薬の飲み合わせは大丈夫?」など、少しでも疑問や不安があれば、診察室で遠慮なく何でもご質問ください。
もし健康診断でPSA値の異常を指摘されたまま放置している方がいらっしゃいましたら、手遅れになる前に、ぜひ一度当院までご相談ください。
私たちがしっかりとサポートいたします。

