血尿が出たら危機? 考えられる5つの原因と「がん」の警告サイン

「トイレに行ったら、尿に血が混じっていた……」

もしこんなことが起きたら、誰でも驚いてしまうと思います。特に男性は、生理などで血液を見慣れている女性と違い、パニックになってしまう方も少なくありません。

「放っておけば治るかな?」と思うかもしれませんが、血尿は体からの重要なサインです。 中には「がん」の可能性が潜んでいることもあります。

血尿が出たら、まずどんな検査をするの?

血尿は、体の中の「尿路(腎臓、尿管、膀胱など)」から出血している証拠です。尿路の中の組織が壊れていたり、傷ついていたりするサインですので、血尿が出たら必ず泌尿器科を受診してください

病院では、主に以下の手順で原因を探ります。

  1. 尿検査: 本当に血(赤血球)が出ているかを確認します。

  2. 超音波検査(エコー): 痛みもなく、放射線の被曝もしない安全な検査です。腎臓や膀胱・前立腺(男性)の状態を見ます。

  3. CT検査: 体を輪切りにして詳しく見ます。得られる情報量が多く、大体の原因はここまでで判明します。

  4. 膀胱鏡(内視鏡)検査: 膀胱内視鏡を直接膀胱の中に入れて詳しく見ます。

「膀胱鏡」は痛い?

「カメラを入れるなんて痛そう……」と不安になる方も多いですよね。 女性は尿道が短いので痛みは比較的少ないのですが、男性はカメラが尿道を通過する際に痛がる方が多いのが現実です。 ただ、最近は「軟性膀胱鏡」という、柔らかくくねくね曲がるカメラが主流で、当院でも軟性膀胱胸を使用しております。昔の硬いカメラに比べると、体へのダメージも痛みもかなり軽減されていますので、過度に恐れる必要はありません。

血尿の主な原因5選

ここからは、検査で見つかる「血尿の主な原因」を5つご紹介します。

① 尿管結石

1つ目は「尿管結石」です。 腎臓の中に石があるうちは無症状ですが、石が落ちて細い尿管にハマると、こすれて出血し、さらに尿の流れが止まって腎臓が腫れます(水腎症)。

これが「痛みの王様」と呼ばれるほどの激痛を引き起こします。 私自身も40歳のときに、この苦しみを経験しております。「居ても立っても居られない」というのはまさにこのことか、というくらいの痛みでした。その痛みを経験してからは、尿管結石の患者さんに対してとても優しい医者になることができました(笑)。

 痛みは強烈ですが、24時間以内に治まります。結石の部位と大きさによって治療方針はかわります。たいていの場合、慌ててすぐに手術をするよりは、1ヶ月ほど様子を見て自然に石が出るのを待つのが基本的な治療方針です。

② 膀胱炎・前立腺炎

2つ目は感染症です。

  • 女性の場合:膀胱炎 尿道が短いため細菌が入りやすく、炎症で組織が傷ついて出血します(細菌性膀胱炎)。

  • 男性の場合:前立腺炎 男性は膀胱炎になりにくいですが、その手前の「前立腺」に菌が入ることがあります。

特に男性の前立腺炎は要注意です。膀胱と違って実質臓器なので、ここに菌が入ると40度近い高熱が出ることがあり、ご高齢の方や基礎疾患(癌や糖尿病など)をお持ちの方だと命に関わる場合もあります。男性で血尿と高熱が出たら、すぐに病院へ来てください。

③ がん

3つ目、これが今回一番お伝えしたい「がん」です。 (膀胱がん、腎臓がん、尿管がん、前立腺がんなど)

がん細胞は急激に増殖するために自分で新しい血管を作りますが、この血管はとても脆く、少しの刺激ですぐに出血してしまいます。

  • 膀胱がんの特徴: 「痛みのない血尿」が出ます。痛みや違和感などの症状がないのに肉眼的血尿(目で見える血尿)が出る場合は非常に危険です。

  • その他の特徴: 前立腺がん、腎臓がん、尿管がんなども、初期は無症状ですが進行すると血尿が出ます。

10万人に数人程度の病気ではありますが、命に関わる病気ですので、決して無視できません。

④ 腎臓内の病気

4つ目は、腎臓そのものの病気(腎炎やIgA腎症など)です。 これは泌尿器科というより「腎臓内科」の領域になることが多いです。尿検査をした時に、血尿だけでなく「タンパク」も一緒に出ている場合はこの可能性が高くなります。

⑤ 原因不明

最後、5つ目は「原因不明」です。

特に、健康診断などで「尿潜血陽性」を指摘されて受診された方の場合、実はこれ、かなり多いのです。「精密検査をしたのに分からないの?」と思われるかもしれませんが、私の感覚では、受診される方の半数程度は原因が特定できません。

これは「特発性腎出血」などと呼ばれ、特に病気はないけれど腎臓から出血しやすい体質のようなケースです。

原因が分からない時は、少なくとも現時点で明らかな「がん」がないことを確認します。その後は2-3か月ごとに尿検査・尿細胞診(尿の中にがん細胞が混じっていないか)、超音波検査(エコー)などで経過観察をすることが多いです


まとめ

血尿が出た時に考えられる主な原因は以下の5つです。

  1. 尿管結石

  2. 膀胱炎・前立腺炎

  3. がん(痛みのない血尿は要注意!)

  4. 腎臓の病気

  5. 原因不明

血尿が出たら、自己判断は禁物です。「痛くないから大丈夫」ではなく、「痛くない血尿こそ怖い(がんの可能性がある)」と覚えておいてください。

もし血尿に気づいたら、迷わず泌尿器科を受診しましょう。

 

この記事を書いた人
院長 磯野誠

 
略歴
・防衛医科大学校卒業 医師免許取得
・研修医(防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院)
・陸上自衛隊武山駐屯地医務室(神奈川県横須賀市)で総合診療に従事
・専修医(防衛医科大学校病院)で泌尿器科診療に従事
・陸上自衛隊善通寺駐屯地医務室(香川県善通寺市)で総合診療に従事
・防衛医科大学校医学研究科
・デュッセルドルフ大学泌尿器科学講座(ドイツ連邦共和国)で泌尿器科がんの研究に従事
・陸上自衛隊第11旅団司令部(北海道札幌市)医務官
・恵佑会札幌病院泌尿器科、札幌医科大学病理学第一講座で泌尿器科がんの診療・研究に従事
・我孫子東邦病院泌尿器科で女性泌尿器科・前立腺肥大症・尿路結石の診療に従事
・所沢いそのクリニック開院

資格・所属学会
・医学博士
・日本泌尿器科学会 専門医・指導医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定医
・日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器ロボット支援手術プロクター(手術指導医;前立腺・膀胱、仙骨膣固定術)
・日本内視鏡外科学会 技術認定医
・日本透析医学会
・日本生殖医学会
・日本メンズヘルス医学会 テストステロン治療認定医
・ボトックス講習・実技セミナー(過活動膀胱・神経因性膀胱)修了
・がん診療に携わる医師に対する緩和ケア講習修了
・臨床研修指導医

院長 磯野誠をフォローする
院長ブログ